会社法 資本金の額等 その3

会社法449条 資本金、準備金減少に係る債権者の異議

 

・債権者異議の必要性

会社が確保しなければならない財産(=資本金)が減少することで、剰余金が生まれ、株主へ分配(=資本金の社外流出)することが可能となります。しかし、債権者にとっては会社の財産が目減りすると、債権回収が困難となる可能性があるため、望ましいことではありません。そこで、いかなる場合であっても債権者は会社の資本金の減少に対して異議を述べることができます。すなわち、会社は債権者に対し異議を述べることができる旨を通知する必要があります。

 

・債権者の異議(449条)

会社が資本金、準備金の額を減少させる場合、対象会社の債権者は異議を述べることができます。ただし、準備金の額が減少する場合で、以下に当てはまる場合には、異議を述べることはできません。

①減少する準備金の全額をそのまま資本金に組み込む場合。(資本金が増えます。)

②定時株主総会の決定にて、減少する準備金の額を資本金の欠損の補填に充てる場合。(準備金減少を決定する定時株主総会の時において、欠損額が法令に定められた額を超えないことが要件。臨時株主総会で決定した場合、債権者保護手続きが必要。

①の場合、準備金がそのまま資本金となり、会社財産が減少することはないため、債権者は損失を被りません。②の場合は、準備金の額がそのまま減少することになりますが、債権者は補填のために用意された準備金が減少することはある程度覚悟しなければならないため、異議申述ができないとされています。

 

・債権者への通知(449条)

資本金、準備金の減少にあたり、債権者が異議を述べることができる場合には、会社は資本金、準備金の減少に係る内容を官報に公告し、所在が知れている債権者には個別に通知する必要があります。また、異議を述べることができる期間は1か月以上としなければなりません。

ただし、官報への公告に加えて会社が定款に定めた「時事に関する事項を掲載する日刊新聞に掲載」又は「電子公告」を行った場合には、債権者への個別通知を行う必要はありません。

 

・債権者による異議陳述(449条)

会社の債権者が異議を述べることができる期間内に異議を述べなかった場合は、資本金、準備金の額の減少を承認したものとみなされます。期間を過ぎてから異議申述をすることはできません。

期間内に債権者が異議を述べた場合には、対象会社は債権者に対して「弁済」「担保の提供」「信託会社等への財産の信託」を行う必要があります。ただし、債権者が異議を述べたときであっても、資本金、準備金の減少によって債権者を害するおそれのない場合には、会社は債権者に対して弁済等を行わなくてもよいです。(つまり、行ってもよいことになります。)

 

・効力発生日(449条)

資本金、準備金の減少の効力発生日は、株主総会の決議によって決められます。効力発生日の前までは、会社はいつでも効力発生日を変更することができます。

なお、債権者の異議申述に関する手続きが終了していないときは、効力発生日が到来した場合であっても、資本金、準備金の額の減少は無効となります。

会社法 資本金の額等 その2

会社法447条~ 資本金額の減少等

 

・資本金の額の減少(447条)

資本金の額の減少を行う場合、株主総会の特別決議が必要です。資本金をゼロとすることはできますが、マイナスとすることはできません。資本金は会社の財産であるため、自由に減少させることはできず、一定の手続きを取る必要があります。

以下の場合に限り、株主総会の特別決議によらずに資本金を減少させることができます。

①定時株主総会において、定時株主総会の日時点の欠損金(※後述)の額を超えない範囲の資本金の減少は、普通決議で足ります。

②株式の発行と同時に資本金を減少させる場合、資本金の減少の効力発生日「後」の資本金の額が効力発生日「前」の額を下回らないときは取締役会の決議で足ります。もしくは、取締役(複数名)の多数決、取締役(1人)の決定です。

資本金の額の減少の効力発生日は、株主総会で決めた日(決議を行った日ではありません。)となります。ただし、効力発生日前までに債権者保護をする必要があります。

※欠損金…経営不振等で資本金の額に満たなくなってしまった場合の差額。各事業年度において、法人税の計算に入れる利益額より損失額が大きくなった場合、その差が欠損金となります。

 

・準備金の額の減少(448条)

準備金の額の減少を行う場合、株主総会の普通決議が必要です。準備金をゼロとすることはできますが、マイナスにすることはできません。

通常、株主総会の普通決議が必要ですが、株式の発行と同時に準備金を減少させる場合、準備金の減少の効力発生日後の準備金の額が効力発生日前の額を下回らないときは、取締役会の決議で足ります。もしくは、取締役(複数名)の多数決、取締役(1人)の決定です。

準備金の額の減少は、資本金の額の減少と同じく、株主総会で決めた日(決議を行った日ではありません。)に効力が発生します。ただし、効力発生日前に債権者保護をする必要があります。なお、減少する準備金の額をそのまま資本金へ組み込む場合、債権者に不利益を与えないため、債権者保護の手続きを取る必要はありません。債権者保護の具体的手続きは次条となります。

会社法 資本金の額等 その1

会社法445条 資本金等

 

・資本金の額及び準備金の額(445条)

資本金の額は、法に別段の定めがある場合を除いて、会社の設立時又は株式の発行時に株主となる者が出資(払込み、給付)した金額です。

株主が出資したお金は原則すべて資本金として計上しなければなりませんが、出資額の2分の1を超えない範囲を資本準備金として計上することができます。つまり、払込み、給付を受けた金額の最低でも半分は資本金として計上しなければならない、ということになります。

株式会社では、資本金は定款記載事項ではありませんが、登記事項です。準備金は定款記載事項でも登記事項でもありません。

 

剰余金の配当を行う場合、資本金から直接支出することはできません。資本金が減少してしまうと、株主や債権者にとって不利益になるためです。

資本準備金又は利益準備金(準備金)を用意し、利益準備金から支出します。剰余金の配当を行う前に剰余金の10分の1を積み立てます。資本準備金利益準備金を合わせて資本金の4分の1を上限に積み立てることができます。

 

公認会計士とか税理士とかそっち分野っぽいので、剰余金の額(446条)は割愛します。テキストとか読み解いている間に、必要そうであれば、追記します。

会社法 計算書類 その5

会社法444条 計算書類

 

・連結計算書類(444条)

子会社を有する会計監査人設置会社は、各事業年度に係る連結計算書類を作成することができます。

連結計算書類とは、対象会社とその子会社から成る企業集団の財産、損益を表す計算書類のことです。連結計算書類を作成する(=連結決算を行う)メリットは、グループ全体の損益状況を把握できることと、グループ企業間での不正を防止できることです。有価証券報告書の提出義務のある大会社は連結計算書類の作成義務があります。

連結計算書類は会計監査人及び監査役(監査等委員会、監査委員会含む)の監査を受ける必要があります。

取締役会設置会社の場合、監査を受けた連結計算書類は取締役会の承認を経て定時株主総会へ提供されます。

定時株主総会にて、取締役は連結計算書類の監査結果について、報告を行わなければなりません。

会社法 計算書類 その4

会社法442条~ 計算書類

 

・計算書類の備置き、閲覧(442条)

計算書類はそれぞれ決められた期間、会社の本店に保管する義務があります。

①各事業年度に係る計算書類等…定時株主総会の日の1週間前の日(取締役会設置会社は2週間前)から5年間

②臨時計算書類…作成日から5年間

支店にはぞれぞれ3年間の保管義務があります。(本店は5年、支店は3年です。)

株主、債権者はいつでも計算書類の閲覧請求ができます。(写本の請求も含む)

対象会社の親会社職員は、必要時に裁判所の許可を受けて閲覧請求ができます。(写本含む)

 

・計算書類の提出命令(443条)

裁判所は申し立て又は職権で計算書類等の提出を命ずることができます。

会社法 計算書類 その3

会社法441条~ 臨時計算書類等

 

・臨時計算書類(441条)

会社は、最終事業年度の直後の事業年度に属する一定の日を臨時決算日と定めることができます。ざっくりいうと、会計年度の途中のある1日を臨時決算日と定められます。

臨時決算日を決めた場合、会計年度の初日から臨時決算日までの会社の資産状況を把握できるよう、下記①~②の臨時計算書類を作成します。

①臨時決算日における貸借対照表

②臨時決算日が属する会計年度の初日から臨時決算日までの損益計算書

監査役設置会社(監査の範囲が会計に関するものに限定する会社を含む)、会計監査人設置会社の場合、臨時計算書類は監査役又は会計監査人の監査を受ける必要があります。監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の場合は、監査等委員又は監査委員並びに会計監査人の監査を受ける必要があります。

取締役会設置会社の場合は、監査を受けた後の臨時計算書類について、取締役会の承認を得る必要があります。

その後、それぞれ監査、承認等を受けた臨時計算書類は、株主総会の承認を得て初めて、有効な臨時計算書類となります。

臨時計算書類には、公告の義務はありません。

 

・臨時計算書類の特則(441条他)

1つの会計年度中に複数の臨時決算日を定めることができます。

最終事業年度がない会社(新規設立会社)であったとしても、臨時決算日を定めることができます。

一定の条件を満たす臨時会計書類は、株主総会の承認を得る必要はありません。条件は通常の計算書類と同様です。→前ページ参照

会社法 計算等 その2

会社法435条~ 計算書類

 

・計算書類等の作成、保存(435条)

はじめに株式会社成立時に貸借対照表を作成します。

貸借対照表…企業のある一定時点における資産、負債、純資産の状態を表すもの。

事業年度ごとに計算書類、事業報告、これらの付属明細書を作成します。

これら計算書類は、作成時から10年間保管義務があります。(会計帳簿は閉鎖時から10年間です。)

 

・計算書類等の監査等(436条)

計算書類、事業報告、それらの付属明細書は会計監査人設置の有無を問わず、すべて監査役、監査等委員、監査委員による監査が必要です。

会計監査人設置会社の場合は、計算書類と計算書類に係る付属明細書について、会計監査人による監査が必要です。(監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社)

取締役会設置会社の場合、計算書類、事業報告、これらの付属明細書は監査が終わった後、取締役会の承認を得る必要があります。取締役会の承認を受けることで、定時株主総会へ提出ができるようになります。(監査役がいない場合は、そのまま承認を受けます。)

 

・計算書類等の株主への提供(437条)

取締役会設置会社は定時株主総会の招集に際し、取締役会で承認を受けた計算書類を提供しなければなりません。監査を受けていた場合、監査報告又は会計監査報告も提供する必要があります。

 

・計算書類等の定時株主総会への提出(438条)

監査役、会計監査人が設置されている会社(取締役会設置会社を除く)は、それぞれの監査を受けた計算書類、事業報告を定時株主総会へ提出します。上記(437条)の通り、取締役会設置会社であれば、取締役会の承認を受けてから提出します。いずれの機関もない会社であれば、取締役が作成した計算書類、事業報告を定時株主総会へ提出します。

定時株主総会では、取締役は計算書類と事業報告の報告義務があり、定時株主総会で承認を受けて、公告等を行うことができるようになります。(定時株主総会では、附属明細書までは提供義務はありません。)

 

・会計監査人設置会社の特則(439条)

会計監査人設置会社である場合、一定の要件を満たせば、計算書類を定時株主総会へ提出し、承認を受けることを要しません。その場合、取締役は定時株主総会で報告する必要があります。

①会計監査人が計算書類に対し、無限定適正意見(すべての重要な点において適正に表示されている、という意見)を示していること

監査役、監査等委員会、監査委員会から提出された監査報告、又はそれぞれ個別の監査役、委員からの付記事項に会計監査報告への異議がないこと

③監査報告の通知期限切れによるみなし監査となっていないこと

取締役会設置会社であること

 

・計算書類の公告(440条)

定時株主総会終結後、遅滞なく貸借対照表を公告しなければなりません。

大会社は損益計算書も公告します。