民法 代理行為 その5

民法113条~ 無権代理

 

無権代理(113条)

代理権を有しない者が他人の代理人として行った契約は、本人の追認によって効力を生じさせます。

その追認又は拒絶は代理人ではなく、相手方にしなければ、対抗できません。ただし、相手方が無権代理行為を知っていたときは、その限りではありません。

 

判例(113条)

本人が無権代理人を相続した場合、無権代理行為の追認を拒絶することができ、相続により当然に無権代理行為が有効になることはありません。(最判昭和37.4.20)

無権代理人が本人を相続した場合、本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じさせたものと解され、無権代理行為は当然に有効となります。(最判昭和40.6.18)

本人が無権代理人を相続した場合であっても、民法117条による無権代理人が相手方に負担すべき損害賠償の義務を承継することになります。無権代理人の地位を相続したと解されるためです。(最判昭和48.7.3)

無権代理人を本人と共に相続した者が、その後さらに本人を相続した場合、無権代理人の地位を得た後に本人の地位を相続したことになるため、当該相続人は無権代理行為を拒絶することができません。(最判昭和63.3.1)

無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合、相続人全員が無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分についても、無権代理行為は有効となりません。また、他の相続人全員が追認しているときに、無権代理人が拒絶することは信義則上許されません。(最判平成5.1.21)

本人が無権代理行為を拒絶した場合は、当該行為は確定的に効力を失います。本人であっても遡って追認することはできません。さらにその後無権代理人が本人を相続した場合であっても、追認することは許されません。(最判平成10.7.17)

 

無権代理行為の相手方の催告権(114条)

無権代理行為の相手方は、本人に対して、相当の期間を定めてその期間内に追認をするかどうかを催告することができます。本人が期間内に確答をしないときは、拒絶したものとみなされます。

 

無権代理行為の取消権(115条)

無権代理行為は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができます。ただし、契約時において、代理権を有しないことを相手方が知っていた場合は、取り消すことはできません。

 

無権代理行為の追認(116条)

追認は、別段の意思表示がないときは、契約時に遡って効力を生じさせます。ただし、第三者の権利を害することはできません。

 

無権代理人の責任(117条)

他人の代理人と称して契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除いて、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負います。ただし、本規定は以下の場合には、適用しません。

無権代理人であることを相手方が知っていたとき。

無権代理人であることを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときはこの限りではありません。

無権代理人が行為能力の制限を受けていたとき。

 

判例(117条)

無権代理人の責任は、法が特別に認めた無過失責任です。自己に代理権がないことについて善意無過失であっても、無権代理人は、その責任を負わなければなりません。

無権代理人に代理権がないことを知らなかったことについて過失がある相手方は、法による保護に値しないとする趣旨であるため、この場合の相手方の過失は重大な過失に限定されません。

表見代理無権代理が同時に成立する場合、相手方は直ちに無権代理人の責任を追及することが可能です。無権代理人は、自己に表見代理の成立を主張して責任を逃れることはできません。(最判昭和62.7.7)