民法 無効及び取消し その2

民法121条~ 無効及び取消し

 

・取消しの効果(121条)

取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされます。

 

・原状回復の義務(121条の2)

無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を現状に服させる義務を負います。つまり、無効な行為によって利益を受けた場合は、利益を相手方に返さなければならないということです。

上記の規定に関わらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であることについて善意であったときは、現存の利益のみを返還しなければなりません。

同様に行為の時に意思能力を有しなかった者(成年被後見人等、未成年者)は、その行為によって現存の利益を限度に相手方に返還の義務を負います。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とします。

 

判例(121条の2)

被保佐人が保佐人の同意を得ずに金銭消費貸借契約を締結し、契約後もその同意を得ることができず、後に契約を取り消した場合、被保佐人が本件金銭消費貸借契約によって得た金銭を賭博に浪費していたときは、その利益は現存しないため、被保佐人は返還義務を負いません。(最判昭和50.6.27)

 

・取り消すことができる行為の追認(122条)

取り消すことができる行為を取消権者が追認した場合は、以後取り消すことはできません。

 

・取消し及び追認の方法(123条)

取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によって行います。

 

・追認の要件(124条)

取り消すことのできる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有する事をしった後にしなければ、その効力を生じません。

以下の場合の追認は、取消しとなっていた状況が消滅した後にすることを要しません。

法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認するとき。

制限行為能力者成年被後見人を除く)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認するとき。(成年後見人には同意権がないため。)

ex)制限行為能力者(以下、本人)が行為能力の制限によって取り消すことができる法律行為を行為能力者となった後に追認した場合であっても、本人が当該法律行為を取り消すことができることを知らなかった場合は、本人の追認の効力は生じません。

 

・法定追認(125条)

追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について、以下の事実があった場合は、追認をしたものとみなされます。ただし、異議をとどめたときは、追認の効果は生じません。

①全部又は一部の履行

②履行の請求

③更改

④担保の供与

⑤取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡

強制執行

 

・取消権の期間の制限(126条)

取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅します。行為の時から20年を経過したときも、同様です。

民法 無効及び取消し その1

民法119条~ 無効及び取消し

 

・無効な行為の追認(119条)

無効な行為は、追認によっても有効とはなりません。ただし、当事者がその行為が無効であることを知って追認したときは、新たな行為をしたものとみなされます。

 

判例(119条)

養子縁組をする目的で他人の子を嫡出子として出生届を届け出た場合であっても、それによって養子縁組とみなされることはなく、養子縁組の効力は生じません。(最判昭和49.12.23)

→無効な行為であることを知って出生届を提出し、それを追認(=養子縁組)の意思表示したとしても、効力を生じることはありません。

 

・取消権者(120条)

行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者本人又はその代理人、承継人若しくは同意権者に限り、取り消すことができます。制限行為能力者が他の制限行為能力者代理人として行った場合、当該他の制限行為能力者(この場合は、本人)を含みます。(同意権者=保佐人、補助人であって、同意権を付与されている者。)

錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした本人又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができます。

保証人は、取消権者に含まれません。

 

判例(120条)

表意者の重大な過失によって意思表示に錯誤があった場合、表意者は意思表示の無効を主張することができません。この場合、相手方や第三者もその無効を主張することはできません。(最判昭和40.6.4)

瑕疵ある意思表示をした当事者が錯誤を認めず、意思表示の無効を主張しない場合、第三者がその無効を主張することはできません。(最判昭和40.9.10)

三者は、表意者の錯誤を理由に無効を主張することはできませんが、当該第三者において表意者に対する債権を保全する必要があり、表意者が意思表示の瑕疵を認めているときは、表意者自ら意思表示の無効を主張する意思がなくても、第三者である債権者は、表意者の意思表示の錯誤による無効を主張することが許されます。(最判昭和45.3.26)

民法 代理行為 その5

民法113条~ 無権代理

 

無権代理(113条)

代理権を有しない者が他人の代理人として行った契約は、本人の追認によって効力を生じさせます。

その追認又は拒絶は代理人ではなく、相手方にしなければ、対抗できません。ただし、相手方が無権代理行為を知っていたときは、その限りではありません。

 

判例(113条)

本人が無権代理人を相続した場合、無権代理行為の追認を拒絶することができ、相続により当然に無権代理行為が有効になることはありません。(最判昭和37.4.20)

無権代理人が本人を相続した場合、本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じさせたものと解され、無権代理行為は当然に有効となります。(最判昭和40.6.18)

本人が無権代理人を相続した場合であっても、民法117条による無権代理人が相手方に負担すべき損害賠償の義務を承継することになります。無権代理人の地位を相続したと解されるためです。(最判昭和48.7.3)

無権代理人を本人と共に相続した者が、その後さらに本人を相続した場合、無権代理人の地位を得た後に本人の地位を相続したことになるため、当該相続人は無権代理行為を拒絶することができません。(最判昭和63.3.1)

無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合、相続人全員が無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分についても、無権代理行為は有効となりません。また、他の相続人全員が追認しているときに、無権代理人が拒絶することは信義則上許されません。(最判平成5.1.21)

本人が無権代理行為を拒絶した場合は、当該行為は確定的に効力を失います。本人であっても遡って追認することはできません。さらにその後無権代理人が本人を相続した場合であっても、追認することは許されません。(最判平成10.7.17)

 

無権代理行為の相手方の催告権(114条)

無権代理行為の相手方は、本人に対して、相当の期間を定めてその期間内に追認をするかどうかを催告することができます。本人が期間内に確答をしないときは、拒絶したものとみなされます。

 

無権代理行為の取消権(115条)

無権代理行為は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができます。ただし、契約時において、代理権を有しないことを相手方が知っていた場合は、取り消すことはできません。

 

無権代理行為の追認(116条)

追認は、別段の意思表示がないときは、契約時に遡って効力を生じさせます。ただし、第三者の権利を害することはできません。

 

無権代理人の責任(117条)

他人の代理人と称して契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除いて、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負います。ただし、本規定は以下の場合には、適用しません。

無権代理人であることを相手方が知っていたとき。

無権代理人であることを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときはこの限りではありません。

無権代理人が行為能力の制限を受けていたとき。

 

判例(117条)

無権代理人の責任は、法が特別に認めた無過失責任です。自己に代理権がないことについて善意無過失であっても、無権代理人は、その責任を負わなければなりません。

無権代理人に代理権がないことを知らなかったことについて過失がある相手方は、法による保護に値しないとする趣旨であるため、この場合の相手方の過失は重大な過失に限定されません。

表見代理無権代理が同時に成立する場合、相手方は直ちに無権代理人の責任を追及することが可能です。無権代理人は、自己に表見代理の成立を主張して責任を逃れることはできません。(最判昭和62.7.7)

民法 代理行為 その4

民法109条~ 表見代理

 

・代理権授与の表示による表見代理等(109条)

実際には代理権がないにも関わらず、他人に代理権があるように表示した本人は、当該他人が行った代理行為に対して責任を負います。ただし、第三者が当該他人に代理権がないことを知り、又は過失によって知らなかった場合、本人は責任を負いません。

また、上記の場合において、他人に代理権があるように表示した本人は、当該他人が第三者との間で表示された代理権の権限外の行為を行ったときに、第三者が権限外の行為について代理権があると信じるべき正当な理由があれば、権限外の行為についても責任を負います。

ex)AがBに対して代理権を付与していないにも関わらず委任状を交付した場合であって、BがAの代理人と称してCと法律行為を行い、CがBをAの代理人と信じたことに善意無過失であったときは、AはBの行為について、責任を負います。

 

判例(109条)

代理権授与表示者は、代理行為の相手方の悪意又は過失を立証することで、表見代理の責任を免れることができます。(最判昭和41.4.22)

無権代理人が締結した根抵当権設定契約を本人が追認し、当該無権代理人がさらに他の第三者根抵当権設定契約をした場合、本人が行った追認行為は、第三者との関係では表見代理が成立し、第三者に正当な理由があるときには、109条及び112条が類推適用され、本人は表見代理人の責任を負います。(最判昭和45.12.24)

 

・権限外の行為の表見代理(110条)

他人に代理権を与えた本人は、代理人が代理権の範囲外の行為を行った場合において、第三者代理人の権限があると信じるべき正当な理由があるときには、責任を負います。本条において、本人が責任を負う場合は、第三者に善意無過失が求められます。

 

判例(110条)

110条は、代理権を有する者がその権限を越える行為をした場合に適用されるものであり、代理権がないものがした行為には適用されません。(大判大正2.6.26)

本人は、代理人が権限外の行為をした場合には、その行為について無過失であっても責任を免れることはできません。(最判昭和34.2.5)

代理人代理人と名乗らず、本人の名において権限外の行為を行った場合は、相手方がその行為を本人自身の行為と信じたことについて、正当な理由があるときに限り、110条を類推適用し、本人はその責任を負います。(最判昭和44.12.19)

民法 代理行為 その3

民法107条~ 代理行為

 

・代理権の濫用(107条)

代理人が自己又は第三者の利益を図るために代理権の範囲内の行為をした場合、相手方がその目的を知り、又は過失により知らなかったときは、その行為は代理権を有しない者が行った行為とみなされます。

相手方が代理人の代理権限があったことを知っているとき、又は知ることができたときは、本人はその責任を負わないということです。

 

判例(107条)

親権者が子を代理して、子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、自己又は第三者の利益を図ることのみを目的とする等、親権者が子を代理する権限を著しく逸脱すると認められない限り、代理権の濫用には当たりません。(最判平成4.12.10)

 

・自己契約及び双方代理等(108条)

同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は双方の代理人として行った行為は、代理権を有しない者が行った行為とみなされます。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、代理権が認められます。

代理人と本人の利益が相反する行為も代理権を有しない者が行った行為とみなされます。この場合でも、本人があらかじめ許諾をした行為は、代理権が認められます。

本条の規定は、本人を保護するための規定であるため、あらかじめ本人から許諾が得られている行為を代理する場合は、有効な代理行為となります。(大判大正8.12.26)

 

判例(108条)

契約当事者の一方が相手方に自己の代理人の選任を委任した場合、その委任契約は無効であり、相手方が選任した代理人には、代理権がありません。(大判昭和7.6.6)

登記申請について、同一の弁護士が登記権利者及び登記義務者の双方の代理人になっても、その代理行為は有効です。登記手続きはすでに発生した権利関係の公示を申請するものであり、新たな法律行為を行うものではないためです。(最判昭和43.3.8)

民法 代理行為 その2

民法103条~ 代理行為

 

・権限の定めのない代理人の権限(103条)

権限の定めのない代理人は「保存行為」「代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲の利用又は改良」のみ行うことができます。

 

・復代理人の選任(104条・105条)

委任による代理人任意代理人)は、本人の許諾を得たとき又はやむを得ない事由があるときに限り、復代理人を選任することができます。

法定代理人は、自己の責任において復代理人を選任することができます。この場合、法定代理人は、復代理人のすべての行為について責任を負わなければなりません。ただし、やむを得ない事由により復代理人を選任した場合は「選任」と「監督」についてのみ責任を負います。

なお、本人が被後見人であり、後見監督人がいる場合、後見人は後見監督人の同意がなければ、復代理人を選任することはできません。

 

・復代理人の権限等(106条)

代理人は、その権限の範囲の行為について、本人の代理人となります。

代理人は、本人及び第三者に対し、代理人と同一の権利義務を有します。

代理人の代理権が消滅した場合、復代理人の権限も消滅します。

 

判例(106条)

代理人の選任によって、代理人はその権限を失いません。(大判大正10.12.6)

代理人がその委任事務ために金銭等を受領した場合は、本人に対しても代理人に対してもその金銭等を引き渡すことができます。この場合、復代理人代理人に対して金銭等を引き渡した場合は、本人に対する引渡義務は消滅します。(最判昭和51.4.9)

民法 代理行為 その1

民法99条~ 代理行為

 

・代理行為の要件及び効果(99条・100条)

本人の代理人が本人のためにすることを示して行った意思表示は、本人に対して直接効力が生じます。第三者代理人の相手方)が代理人に対して示した意思表示も同様に本人へ直接効力を生じさせます。

代理人が本人のためにすることを示さないで行った意思表示は、自己(代理人)に対して効力が生じます。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは本人に効力が生じます。

 

・代理行為の瑕疵(101条)

上記が前提となりますが、代理人の意思表示に瑕疵が生じる場合があります。代理人が相手方にした意思表示が錯誤によるものであったり、詐欺や強迫の場合です。また、代理人がある事情について悪意であった又はある事情について善意であっても有過失であった場合も瑕疵ある意思表示となります。

このように代理人が瑕疵ある意思表示をした場合には、その事実の有無は代理人によって決するものとされています。つまり、本人ではなく代理人の状況によって判断するということです。

ただし、代理人が善意であっても、本人が悪意であった場合は、上記の規定は適用されません。もし、本人が悪意でも適用されると、悪意の本人が善意の代理人を任命すれば、本人はやりたい放題になってしまいます。

ついでに、本人が選任したのが代理人ではなく使者である場合、使者の事情は常に無関係となります。使者による意思表示は、使者の善意悪意に関係なく常に本人の状況によって効力を生じさせます。

ex)本人が使者によって動産甲を購入する場合、売主が無権利者であることについて、使者は悪意でも本人が善意であれば、本人は動産甲を即時取得する。

 

判例(101条)

法人の代表者が選任した代理人が、法人のために動産を買い受けたところ、売主が無権利者であった場合、売主の無権利について、法人の代表者に過失があったとしても、代理人が善意無過失であれば、法人は動産を即時取得します。即時取得の要件である善意無過失は、法人においては代表機関により決するべきですが、代表機関が代理人を選任した場合は、代理人について判断すべきとされています。(最判昭和47.11.21)

上記判例は、法人の代表機関による代理人選任の場合です。法人ではなく個人が代理人を選任し、代理人によって動産を購入した場合、売主の無権利について、代理人が善意無過失でも、本人が善意有過失の場合は、即時取得の要件を満たしません。

 

代理人の行為能力(102条)

制限行為能力者代理人として行った行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができません。

成年被後見人等を代理人に選任した場合は、行為能力の制限による取消しは認められないということです。制限行為能力者代理人にする以上、その意思表示について本人は責任を持たなければなりません。

ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者法定代理人として行った行為は、取消しが認められます。つまり、成年被後見人がその未成年の子の代理人として行った行為は、取消しが認められる、ということになります。