刑法 犯罪の不成立及び刑の減免 その1

刑法(判例) 不作為犯・因果関係・違法性

 

・不作為犯

自己の過失により失火した者が、そのまま放置すれば他の建物に燃え移ることを認識していた場合は、これを消火する義務を負います。しかし、自己の過失の発覚を恐れてあえてこれを放置し、他の建物を焼失されたときは、不作為によって建物への放火行為をなし、他の建物を焼損させたものと言えます。(最判昭和33.9.9)

被害者の女性が被告人らによって、注射された覚せい剤によって錯乱状態になった場合であって、直ちに被告人らが救急要請をしていれば被害者女性を救命できたことが合理的な疑いを超える程度に確実であったときは、あえてこれを放置した行為と結果的に被害者女性が死亡した結果の間には、刑法上の因果関係が認められます。(最決平成1.12.15)

 

・因果関係

加害者による暴行が被害者の心疾患という特殊な事情がなければ、通常は致死の結果を生じ得ないものであり、加害者がその事情を知らず、致死という重大な結果を予見できなかった場合であったとしても、暴行と心疾患が相まって致死の結果を招いたものである以上、因果関係が認められます。(最判昭和46.6.17)

海中における夜間潜水の訓練中、指導者が不用意に受講生らのそばから離れた結果、受講生を見失い、当該受講生が酸素タンクの酸素を使い果たして溺死した場合、受講生及び指導補助者の経験が浅かったなどの事実関係のもとでは、指導補助者及び受講生の不適切な行動が事故を招いたとしても、指導者がその場を不用意に離れた行為と受講生の死亡との間には、因果関係があります。(最決平成4.12.17)

Aは、交通事故により、被害者Bを自車の屋根にはね上げたが、走行中に同乗者Cがこれを引きずり落とし、路上に落下させた。Cの行為は、通常予想し得る行為ではなく、Bの死因となった頭部の傷害が、交通事故によるものか落下によるものか判断がつかない場合、最初の交通事故によってBが死亡することは、経験則上当然予想し得るものとは言えないため、Aによる交通事故とB死亡の間には因果関係は認められません。(最決昭和42.10.24)

加害者が被害者の頭部を殴打するなどの暴行を加えた結果、被害者に脳出血が発生し、その後意識を失った被害者を放置し立ち去った場合において、第三者が被害者の頭部を角材でさらに殴打したために脳出血の症状が早まり死亡したときは、たとえ第三者の行為がなくても被害者は死亡していたものといえるから、加害者の暴行と被害者の死亡には因果関係が認められます。(最決平成2.11.20)

 

・違法性

甲と乙が共謀して、保険金をだまし取る目的で自動車事故を仮装し、甲が運転する自動車で乙を轢いて傷害を負わせた場合であったとしても、甲の乙に対する傷害罪は成立します。(最決昭和55.11.13)

強盗犯人が「こんばんは」とあいさつしたのに対し、家人が「お入り」と答えたのに応じて住居に立ち入った場合、家人が錯誤に陥っていたといえるものであるから、住居侵入罪が成立します。(最判昭和24.7.22)

甲が乙名義の文書を偽造した場合において、甲がすでに偽造文書を作成した後に名義人乙から当該偽造文書作成の承諾を得たとしても、承諾は無意味であり、甲には私文書偽造罪が成立します。(大判昭和11.1.31)(=承諾は行為時に必要であって、事後承諾は効力を生じません。)