刑法 犯罪の不成立及び刑の減免 その2

刑法35条~ 正当行為・正当防衛

 

・正当行為(35条)

法令又は正当な業務による行為は罰されません。

正当行為が成立するためには、社会的妥当性、相当性が必要です。被害者が加害者による行為に同意をしていたとしても、犯罪行為をする目的でした行為は正当行為とは言えません。

 

判例(35条)

報道機関が取材目的で公務員に秘密を漏示するようそそのかしただけでは違法性が推定されません。しかし、その取材の手段が贈賄や脅迫、強要等の一般刑罰法令に抵触する行為、又は取材対象者の人格や尊厳を著しく蹂躙するような場合には、正当な取材活動とは言えず、違法です。(最決昭和53.5.31)

 

・正当防衛(36条)

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を守るためにやむを得ずにした行為は、罰せられません。ただし、防衛の程度を超える行為にて防御を図ろうとした場合は、情状により、その刑を軽減又は免除されます。

急迫不正の侵害を受ける「自己又は他人の権利」は、身体的なものに限らず、法益があれば、財産、自由その他の権利も含める幅広い意味を持ちます。

正当防衛の成立は、他の防衛の手段がない場合に限りません。他の防衛手段があったとしても、急迫不正の侵害に対する防御行為であれば、成立します。

 

判例(36条)

相手方の不正の侵害を予期し、これに応じて立ち向かい敏速に反撃する意図で相手方と対面すべく様子を伺っていたところ、相手方が侵害を加えてきた場合は、急迫な侵害があったとは言えません。(最判昭和30.10.25)

「急迫な侵害」とは、法益侵害の現在又は切迫を意味します。それが予期されたものであるからといって、直ちに急迫性を失うものではありません。(最判昭和46.11.16)

急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防御するためにした行為と認められる限り、その行為が、防御と同時に相手方を攻撃する意思を有していたとしても、全く防御の意思を欠くものと断じることはできません。(最判昭和50.11.28)

老人が棒を持って打ちかかってきたのに対し、斧で反撃する行為は過剰防衛が成立します。(最判昭和24.4.5)

盗犯等の防止及び処分に関する法律の規定は、自己又は他人の生命、身体又は貞操について、危険がないのに恐怖、驚愕、興奮又は狼狽により、その危険があるものと誤信してこれを排除するために相手方を殺傷した場合に適用されるものであるため、行為者に誤信がない場合は、適用がありません。(最決昭和42.5.26)

空手の有段者が酩酊した男女がもみ合っているのを目撃し、女が尻もちをついたから、男から暴行を受けているものと誤解し、その女を助けるために間に入り、男がファイティングポーズを取ったものを自身に殴りかかってくるものと誤信し、自身及び女を守るために空手技である回し蹴りを男に食らわせたところ、男が転倒、死亡に至った場合、誤信にかかる急迫不正の侵害に対する防御手段としては、相当性を逸脱すると言えます。(最決昭和62.3.26)

急迫不正の侵害に対し、複数人が防御行為としての暴行に及んだ場合において、相手方の侵害行為が終了した後も一部の者が暴行を続けたときに暴行行為の離脱者に正当防衛が成立するか否かは、侵害行為終了後に暴行行為から離脱したのではなく、暴行の共謀が成立したかどうかによって決せられるものです。共謀が認められない場合は、相手方の侵害行為終了後に暴行行為から離脱した者には正当防衛が成立しますが、共謀が認められる場合は、離脱した者についても正当防衛は認められません。(最判平成6.12.6)