・心裡留保(93条)
意思表示は、表意者が真意でないことを知ってしたときであっても、その効力を妨げることはできません。
ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは無効となります。この規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません。
この第三者は、善意であれば保護され、無過失までは要求されません。
その気がないのに「この土地を安く売ってあげるよ」と相手方に伝え、相手方が「なんて良い人なんだ...!」と過失なく信じた場合は、有効になるということです。
ex)Aが真意に基づかずに「不動産甲をBに譲る」と言った場合において…
①BがAは真意であると過失なく信じていた場合、AB間の取引は有効です。
②BがAは真意でないと知っていた場合、AB間の取引は無効です。
③BがAは真意でないことを注意すれば気付けた場合、AB間取引は無効です。
上記例において、Bが第三者Cへさらに不動産甲を譲渡した場合、①の場合は当然有効です。たとえCが悪意であったとしても、AB間取引は完全に有効な取引であるからです。
②と③の場合は、Cが善意であれば、有過失であったとしても不動産甲を有効に取得します。
ここでいう第三者は、例えば「Bの債権者Dが不動産甲がBの所有であると信じ、差押えを行った場合」も保護の対象となります。AB間の取引の無効について「新たに取引関係に入った善意の第三者」であることが要件です。
・代理権濫用の場合の類推適用(93条)
93条の規定が類推適用される場合があります。
ex)Aの代理人BがAから与えられた代理権の範囲内でCに不動産乙を売却する場合において、Bが売上代金を着服する目的を持ってCと契約したときは、CがBの目的を知り、又は知ることができた場合、BC間の契約が無効になります。(最判昭和42.4.20)
つまり、CがBの目的を知らず、又は知らないことに過失がない場合は、有効な取引となります。
なお、取引が無効であった場合であっても、CはAの責任を追及することができます。(民法109条・110条)