刑法 文書偽造の罪

刑法154条~ 文書偽造

 

・文書偽造

文書偽造は、有形偽造と無形偽造に分けられます。

有形偽造は、作成権限のない者が他者の名義で文書を作成することです。それに対し、無形偽造は、作成権限のある者が虚偽内容の文書を作成することです。

公文書の無形偽造は、広く罰せられますが、私文書の無形偽造が罰せられるのは、医師が診断書、死亡証書等を偽造した場合に限られます。

 

公文書偽造等(155条)

行使の目的をもって公務所又は公務員が作成すべき文書を偽造した者、又は偽造した公印や署名を使用して公務所又は公務員が作成すべき文書を偽造した者は1年以上10年未満の懲役に処します。行使の目的をもって公務所又は公務員が作成した文書を変造した場合も同様です。

公文書の偽造又は変造のみをした場合は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金です。

 

判例(155条)

公文書偽造罪における偽造とは、公文書の作成権限を持たない者がその名義を用いて公文書を作成することを意味します。すなわち公文書発行における一定手続きを行う権限を許されている公務員もその作成権限を有すると解されます。市民課の一般職員が申請書の提出、手数料の納付等を行わなかったため、代決者である課長の事後決済なしに印鑑証明書を発行させた行為は、権限の濫用ではありますが、発行された印鑑証明書は真正なものであるから、公文書偽造とはなりません。(最判昭和51.5.6)

 

・虚偽公文書作成等(156条)

公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書を作成又は文書の変造をしたときは、印章又は署名の有無により区別して、詔書偽造又は公文書偽造の罪となります。

 

判例(156条)

一般公務員が、情を知らない文書作成担当公務員へ虚偽の内容を知らせ、行使の目的を持って当該担当公務員に虚偽内容の公文書を作成させた場合は、虚偽公文書作成の間接正犯が成立します。(最判昭和32.10.4)

公務員の身分を有しない者が、虚偽の内容を記載した証明願を役場係員に提出し、情を知らない同係員をして、首長名義の虚偽の証明書を作成させた行為は、虚偽公文書作成の間接正犯は成立しません。(最判昭和27.12.25)

 

私文書偽造等(159条)

行使の目的で他人が作成すべき文書を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務又は事実証明に関する文書を偽造した者は、3か月以上5年以下の懲役に処します。他人が作成した私文書を変造した者も同様です。

私文書の偽造又は変造のみをした者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金です。

 

判例(159条)

私文書偽造罪における「事実証明に関する文書」とは、社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書です。(大判大正9.12.24)

代表権、代理権のない者が代理人と表示して作成した文書は、その効果が本人に帰属する形式のものであるから、その名義人は本人です。私文書の有形偽造にあたります。(最判昭和59.2.17)