供託法 弁済供託 その3

供託法 債権者不確知による弁済供託

 

・債権者不確知

債権者不確知(ふかくち)とは、どこに債権者がいるかわからない、ということです。この不確知には、複数の債権者候補者はいるが、誰が正しい債権者か判断がつかない、という場合も含まれます。

典型例は、債権者の相続人がどこにいるかわからないので、供託する場合です。

債務者が債権者を確知できない場合には、すぐに供託することができます。債務者は、債権者を捜索することを要しません。わからなかったら即供託でOKです。

ただし、過失なく不確知であった場合に限ります。債権者の不確知について、債務者に過失がある場合は供託が無効となります。(民法494条)

 

債権がAとBへ二重に譲渡され、債務者のもとに2人の譲受人から確定日付のある証書が送られてきたものの、どちらが先に到達したのか不明な場合は、債権者不確知を原因とする供託ができます。(AとBを債権者として、債権者不確知。)

ただし、同時に到着した場合は、供託できません。同時に到着した場合は、AとBの両者に全額の弁済をしなければならないためです。(最判昭和55.1.11)

上記例のAとBに対し債権者不確知として供託した場合であって、第三者CがAとBを被告として訴えを提起し、Cが債権者であるとの判決が決定したときは、債務者は錯誤を理由に供託を一度取り消してからCに対して弁済しなければなりません。たとえ確定判決の証書があっても、A又はBに供託されているため、Cは払渡請求をすることはできません。

 

債権者が権利能力なき社団である場合で、弁済受領権限のある者が複数名現れたときは、債権者不確知を原因とする供託ができます。権利能力なき社団は登記することができないため、誰に弁済受領権限があるのか確認することが困難であるためです。

 

譲渡制限債権が譲渡された場合、債権の譲渡制限について、譲受人の善意・悪意が不明であったとしても、債権者不確知を原因とする供託をすることはできません。譲渡制限の意思表示がされた債権が譲渡された場合であっても、常に譲渡は有効であるためです。(民法466条)

この場合は、民法466条の2を原因とする弁済供託を行うことで、債務者は債権を消滅させることができます。