会社法 指名委員会等設置会社 その7
会社法418条~ 執行役の権限等
・執行役の権限(418条)
指名委員会等設置会社では、執行役ではない取締役は業務執行を行うことができません。そのため、取締役会で決議(意思決定、方針決定)した業務を執行役が執行する形をとります。
ただし、取締役会から委任を受けた事項については、執行役自ら業務執行の決定をすることができます。
・執行役の報告義務(419条)
執行役は会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合は、監査委員へ報告しなければなりません。執行役は、忠実に職務執行を行う義務があります。
執行役が競業取引、利益相反行為を行う場合は、取締役会の承認を得る必要があります。競業取引、利益相反行為の承認は取締役会の専決事項であるため、執行役へその決定を委任することはできません。
指名委員会等設置会社においては、執行役がすべての業務執行を担うことから、指名委員会等設置会社以外の会社の取締役に課せられていた監査役(そもそもいない)への報告義務が課されないこととなっています。委任した業務について、取締役が執行役の監視・監督を担っています。そのため、監査委員に取締役会への報告義務が生じます。(406条)
・代表執行役(420条)
代表執行役は取締役会が選定します。逆に取締役会はいつでも代表執行役を解任することもできます。なお、執行役が1名のみの場合はその者が代表執行役となります。
会社業務における対外行為、裁判時の会社の代表者は代表執行役となります。代表執行役の行為について、取締役会の決議によって委任がされていなかった場合における第三者の利益は守られなければなりません。(代表執行役の行為に制限がかかっていた場合、第三者に対抗できません。)
会社の利益を保全するため、裁判所が代表執行役の一時的な業務代行者を選定することができます。業務代行者が行うことのできる行為は日常の業務に限られ、日常業務を超えた行為をする場合は、裁判所の許可が必要です。
執行役や代表執行役が任期満了や辞任によって、員数が欠けるときは、新たな執行役、代表執行役がその役職に就くまでなお執行役、代表執行役としての権利義務があります。
・表見代表執行役(421条)
指名委員会等設置会社は代表執行役以外の執行役にその者が会社の代表者と誤認するような名称を付けた場合、その者が行った行為について、善意の第三者に対してその責任を負わなければなりません。執行役以外の使用人等に対して代表執行役と誤認する名称を付した場合も善意の第三者に対して責任を負います。(類推適用)
・株主による執行役の行為差し止め(422条)
執行役が会社の目的外行為、定款・法令違反を行おうとする場合、6か月以上株式を保有する株主は、それらの行為が会社に回復することができない損害を生ずるおそれのあるときは、執行役の行為の差し止めを請求することができます。非公開会社の場合は、保有期間は関係なく、差し止め請求ができます。(取締役行為も同様の請求ができます。)
なお、監査委員による差し止め請求は著しい損害が生ずるおそれのあるときに行うこととなっています。監査委員に比べ株主による執行役の行為の差し止め請求は濫用される危険が高いため、より危機的状況でなければ介入できないようにする目的があります。
会社法 指名委員会等設置会社 その6
会社法417条 指名委員会等設置会社の取締役会の運営
・取締役会の運営(417条)
指名委員会等設置会社は、取締役会の招集権者が決まっていますが、指名委員会等によって選定された委員は招集請求を行うことなく、取締役会を招集することができます。
執行役は招集請求を受ける取締役(416条に基づいて選定された取締役)に対して、取締役会の招集を請求することができます。
各委員会によって選定された委員は、遅滞なく当該委員会の業務執行状況を取締役会へ報告しなければなりません。
執行役は3か月に1回以上は業務の執行状況を取締役会へ報告しなければなりません。代理人により報告させることもできます。
執行役は取締役会から要求があった場合は、取締役会へ出席し、取締役会から求められた事項を説明する義務があります。
会社法 指名委員会等設置会社 その5
会社法410条~ 指名委員会等設置会社の運営
・指名委員会等の招集(410条・411条)
指名委員会等の招集は、当該委員会の各委員が行います。
執行役は、指名委員会等の要求があった場合は、当該指名委員会等へ出席し、要求された事項に関して、説明をしなければなりません。
・取締役の権限(415条)
指名委員会等設置会社の取締役は会社法に別段の定めがある場合以外は、業務の執行をすることができません。業務の執行は執行役又は業務執行取締役が行うためです。
・取締役会の権限(416条)
指名委員会等設置会社は取締役会が必置となっていますが、取締役会が行う業務は以下の通りです。
①経営の基本方針の決定
②監査委員会の職務執行のために必要な事項の決定
③執行役が2名以上いる場合における執行役の業務分担や執行役相互の関係の決定
④執行役から取締役会の招集の請求を受ける取締役の決定
⑤執行役の業務が法令・定款に適合するためおよび子会社・その他企業集団が適正に業務を遂行するための体制整備
⑥執行役の業務執行の監督
上記①~⑥に掲げる事項は執行役に委任することはできません。
・執行役への委任(416条)
取締役会は会社の業務執行の決定を執行役に委任することができます。ただし、以下に掲げる事項はいかなる場合でも取締役会の決議によって決定しなければなりません。(執行役へ委任ができない事項)
①譲渡制限株式・新株予約権の譲渡の承認の可否
②市場取引等によって自社株を取得する場合の取得事項の決定
③株主総会の招集事項の決定、提出議案の決定
④取締役の競業取引・利益相反取引の承認の可否
⑤執行役と会社の利益相反行為が発生する場合における会社の業務執行の社外取締役への委託の決定
⑥取締役会を招集する取締役の決定
⑦指名委員会等の委員の選定・解職
⑧執行役の選任・解任
⑨監査委員と会社の訴訟になる際の会社を代表する者の決定
⑩代表執行役の選任・解職
⑪役員等が任務を怠った場合における損害賠償の免除
⑫計算書類等の承認
⑬補償契約、役員等賠償責任保険契約の内容の決定
⑭余剰金の中間配当に関する配当事項の決定
⑮事業の全部譲渡、事業の重要な一部譲渡に係る契約内容の決定(株主総会の決議が不要なものを除く)
会社法 指名委員会等設置会社 その4
会社法408条~ 指名委員会等設置会社
・指名委員会等設置会社と執行役又は取締役の間の訴え(408条)
「会社が執行役又は取締役を訴える場合」もしくは「執行役又は取締役が会社を訴える場合」には、下記の通り会社の代表者を選定します。
① 監査委員が訴訟の当事者であった場合は、取締役会が定める者(株主総会で指名されていた場合はその者)
② ①以外の場合は、監査委員会が選定した監査委員
執行役又は取締役が訴状を送達する相手は、監査委員です。(もちろん会社宛てに送ってもよいです。)監査委員に送る場合、この段階では誰が会社の代表者になるか決まっていないため、どの監査委員に送ってもよいです。
・報酬委員会による報酬の決定方法(409条)
報酬委員会は、各役員等の報酬額を決定します。具体的な額が決まっていない場合や募集株式、募集新株予約権等で報酬が支払われる場合は、算出方法等を決めなければなりません。ただし、会計参与の報酬のみは、個別の具体的な金額が決まっているものでなければなりません。
①額が決まっている場合は、個人別の具体的な金額(会計参与は具体的な金額を明示する必要があります。)
②額が決まっていない場合は、その算出方法
③募集株式で支払う場合は、募集株式の数と条項(一定期間手放さない、条件が成就した場合は株式を会社へ無償譲渡する等)
④募集新株予約権で支払う場合は、募集新株予約権の数と法令で定められた事項
⑤「③、④」の場合における募集株式、募集新株予約権の引き換えの際に払い込むための金銭
⑥金銭でないもので定めた場合は、具体的な内容
会社法 指名委員会等設置会社 その3
会社法404条~ 指名委員会等の権限
・指名委員会等の権限(404条)
指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選任、解任に関する議案の内容を決定します。つまり、指名委員会等設置会社では、社長や会長、取締役会には取締役に関する人事権がなく、指名委員会によって取締役人事が決定されることとなります。なお、指名委員会等設置会社以外も指名委員会を設置している場合がありますが、これは任意の委員会であり、法定の設置義務がある委員会ではありません。
監査委員会は、監査役(会)設置会社の監査役(会)、監査等委員会設置会社の監査等委員会に相当します。
報酬委員会は、取締役、執行役、(設置していれば)会計参与の報酬を決定します。執行役は支配人や使用人を兼ねることができますが、その場合でも報酬委員会が執行役それぞれの報酬を決定します。
・監査委員による調査(405条)
執行役や支配人による業務の執行、子会社への業務報告請求、子会社の調査は、監査委員会が選定した監査委員のみが行うことができます。
・監査委員の報告義務、執行役等の行為差し止め(406・407条)
監査委員は、取締役、執行役等が不正行為、法令・定款違反の行為をしようとする又はする恐れのある場合は、取締役会への報告義務があります。また、それらの行為によって会社に著しい損害が生じる恐れのある場合、監査委員は差し止め請求をすることができます。
会社法 指名委員会等設置会社 その2
会社法402条~ 指名委員会等設置会社の執行役
・執行役の選任等(402条)
指名委員会等設置会社は、執行役を置かなければなりません。指名委員会等設置会社においては、取締役は会社の経営方針の決定はできますが、実際に業務を執行することはできません。ただし、取締役を兼ねている執行役(業務執行取締役)は実際に業務を執行することができます。公開会社は執行役を株主に限定することはできませんが、非公開会社であれば、執行役を株主に限定する旨を定款に定めることができます。
執行役は取締役会の決議によって選任されます。執行役の任期は1年です(定款により短縮可。)指名委員会等の設置を廃止する定款変更を行った場合には、効力発生時に任期満了となります。
・執行役の解任(403条)
取締役会は執行役をいつでも解任することができます。
正当な事由なく解任を行った場合、解任された執行役は会社に対し、損害賠償を請求することができます。
会社法 指名委員会等設置会社 その1
会社法400条~ 指名委員会等設置会社
・指名委員会等設置会社
指名委員会等設置会社は、必ず取締役会と会計監査人が設置されます。
取締役会の中に「指名委員会」「監査委員会」「報酬委員会」の3つの委員会が置かれます。この3つの委員会は必置となり、その他の委員会を置くこともできます。
監査委員のみ、対象会社又は子会社の執行役、業務執行取締役を兼ねることはできません。また、子会社の会計参与、支配人、その他使用人を兼ねることもできません。
ex)3つの委員会等以外に「訴訟委員会」や「リスク管理委員会」を置く。
各委員会は、すべて3人以上の取締役で構成され、委員の過半数は社外取締役でなければなりません。委員会に所属しない取締役を置くこともできます。
取締役会はその決議によって1名又は2名以上の執行役を選任し、会社の業務執行を執行役へ委任します。取締役と執行役を兼務することも可能です。法律上、執行役は役員ではありませんが、「役員等」という表現になれば、執行役も役員等にあたります。(取締役と執行役を兼ねている人は当然役員となります。)
指名委員会等設置会社の取締役は、会社の経営方針を決定することはできますが、実際に業務を執行することはできないため、執行役の設置が必須となります。
・委員の選定等(400条)
各委員会は3名以上(加重可)で組織され、取締役会の決議にて、取締役の中から選定されます。各委員の半数以上は社外取締役でなければなりません。
監査委員は対象会社又は子会社の執行役、業務執行取締役を兼ねることはできません。また、子会社の会計参与、支配人、その他使用人を兼ねることもできません。
・委員の解職(401条)
各委員の解職は取締役会の決議によって行われます。
各委員の員数が定款で定めた員数を下回った場合でも、任期満了又は辞任によって退任した委員は新たな委員が就任するまで、なお委員としての権利義務を有することになります。
利害関係人の申し立てにより、裁判所は一時委員の選定できます。報酬は対象会社が定めます。一時委員は「裁判所が選定して、会社が報酬を定める」ことになります。