民法 意思表示 その2

民法94条 虚偽表示

 

・虚偽表示(94条)

相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効です。ただし、当該意思表示の無効を第三者に対抗することはできません。

 

ex)Aが所有する土地甲について、AとBが通謀して売買契約を結び、Bへ売却したように仮装し、Bへ所有権移転の登記をした。

上記例の場合、登記簿上はB名義ではありますが、売買の意思を欠くものであるため、虚偽表示にあたります。この登記は抹消するべきとなっています。(大判昭和16.8.30)

ただし、ここに第三者Cが入ると事情が変わります。

ex)AとBが通謀し、A所有の土地乙をBに譲渡したように仮装したところ、BがAB間の通謀につき善意の第三者Cに土地乙を売却した場合、Cは確定的に土地乙の所有権を獲得する。

Aは意思表示の無効を第三者Cに対抗することができません。なお、第三者Cは、無過失であることを要しません。(大判昭和12.8.10)

 

・第三者の範囲(94条)

ex)AとBが通謀し、A所有の土地丙をBに譲渡したように仮装したところ、Bが土地丙上に建物丁を建てた上でCに賃貸させた場合、AはAB間の取引の無効を主張してCに対して土地の明け渡しを請求できる。

上記例での、仮装譲渡された土地上の建物の賃借人Cは第三者に当たりません。(最判昭和57.6.8)

 

ex)AとBが通謀し、A所有の土地戊をBに譲渡したように仮装したところ、BがAB間の仮装譲渡につき善意のCに譲渡し、Cがさらに悪意のDに譲渡した場合、Dは土地戊の所有権を獲得する。

仮装譲渡された不動産の転得者がいる場合、間に善意の譲受人(第三者)がいれば、転得者が悪意であっても、譲渡は有効となります。失踪の取消しのケースのような、双方の善意は求められません。

 

三者の範囲は、新たに法律関係に入るに至った者であれば、第三者に当たります。

虚偽表示に基づいて発生した金銭債権を差し押さえた売主(最初の所有者)の債権者や仮装譲渡された不動産を差し押さえた譲受人の債権者も第三者にあたります。

民法 意思表示 その1

民法93条~ 心裡留保

 

心裡留保(93条)

意思表示は、表意者が真意でないことを知ってしたときであっても、その効力を妨げることはできません。

ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは無効となります。この規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません。

この第三者は、善意であれば保護され、無過失までは要求されません

 

その気がないのに「この土地を安く売ってあげるよ」と相手方に伝え、相手方が「なんて良い人なんだ...!」と過失なく信じた場合は、有効になるということです。

 

ex)Aが真意に基づかずに「不動産甲をBに譲る」と言った場合において…

①BがAは真意であると過失なく信じていた場合、AB間の取引は有効です。

②BがAは真意でないと知っていた場合、AB間の取引は無効です。

③BがAは真意でないことを注意すれば気付けた場合、AB間取引は無効です。

 

上記例において、Bが第三者Cへさらに不動産甲を譲渡した場合、①の場合は当然有効です。たとえCが悪意であったとしても、AB間取引は完全に有効な取引であるからです。

②と③の場合は、Cが善意であれば、有過失であったとしても不動産甲を有効に取得します。

ここでいう第三者は、例えば「Bの債権者Dが不動産甲がBの所有であると信じ、差押えを行った場合」も保護の対象となります。AB間の取引の無効について「新たに取引関係に入った善意の第三者」であることが要件です。

 

・代理権濫用の場合の類推適用(93条)

93条の規定が類推適用される場合があります。

ex)Aの代理人BがAから与えられた代理権の範囲内でCに不動産乙を売却する場合において、Bが売上代金を着服する目的を持ってCと契約したときは、CがBの目的を知り、又は知ることができた場合、BC間の契約が無効になります。(最判昭和42.4.20)

つまり、CがBの目的を知らず、又は知らないことに過失がない場合は、有効な取引となります。

なお、取引が無効であった場合であっても、CはAの責任を追及することができます。(民法109条・110条)

民法 不在者

民法25条~ 不在者

 

・不在者の財産管理(25条~)

そもそも不在者とは、その場にいない人という意味ではなく、本来の住所又は居所を何らかの原因で離脱し、容易には復帰できない者のことを言います。

家庭裁判所は、不在者の利害関係人又は検察官の請求により、不在者のための財産管理人を置くことができます。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも同様です。

 

家庭裁判所が不在者のために管理人を置いた後、不在者本人が新たに管理人を選任した場合、家庭裁判所が選任した管理人の権限は当然には消滅しません。不在者が置いた管理人又は利害関係人、検察官によって管理人の変更を請求しなければ、改任されません。

なお、不在者の生存が明らかである場合には、管理人の任命は不在者本人に任せるべき事項であるため、家庭裁判所は誰の請求によっても、管理にを改任することはできません。

 

不在者の管理人は、「保存行為」と「管理の目的物(権利を含む)の性質を変えない範囲での利用又は改良」であれば、管理人の権限によって行うことができます。ただし、処分行為を行うときは、家庭裁判所の許可が必要です。

家庭裁判所は、不在者の管理人に対し、不在者の財産の中から相当な報酬を与えることができます。

 

・失踪宣言(30条~)

失踪宣言は、本人の利害関係人の請求によって家庭裁判所が行います。検察官は、失踪宣言の請求権限を持ちません。失踪者の家族が本人を待っているのに、国の機関である検察官が勝手に失踪宣言の請求をしたら、残された家族がかわいそうだからです。

失踪宣言の条件は以下の2つです。

①7年間生死が明らかでない場合

②戦争に赴いた者や船舶・飛行機等の事故に遭った者が、その危機が去って1年間生死が明らかでない場合

①の場合は7年間の期間が満了したときに、②の場合は危機が去ったときにそれぞれ死亡したものとみなされます。

 

失踪者が生存することが明らかになったとき、失踪宣言の効力により死亡したとみなされた時と異なる時に死亡したことがあきらかになったときは、家庭裁判所は本人又は利害関係人の請求により失踪宣言を取り消さなければなりません。

失踪が宣言された結果、相続や遺言により失踪者の財産を得た者は、本人の生存につき善意であれば、現存の利益を限度に返還義務が生じます。ただし、悪意の受益者はその全てを返還しなければなりません。

 

善意の受益者から失踪者の財産の譲渡を受けた者は、たとえ失踪者が生存していることが明らかになっても、善意であれば当該財産を確定的に取得し、悪意であれば返還義務が生じます。

 

ex)土地甲を相続人Bが相続した場合で、失踪者Aの生存が明らかになったときは…

失踪者A→相続人B(善意)→譲受人C(善意)…Cは確定的に土地甲の権利を取得する。

失踪者A→相続人B(善意)→譲受人C(悪意)…Cは土地甲をAに返還しなければならない。

失踪者A→相続人B(善意)→譲受人C(善意)→転得者D(悪意)…Dは確定的に土地甲の権利を取得する。

BC間の取引で双方が善意であれば、転得者が悪意であったとしても転得者は、Aの財産を得ることができます。

民法 未成年者、成年後見制度

民法3条~ 行為制限能力者

 

・意思能力(3条の2)

法律行為の当事者が意思表示をしたときに意思能力を有しなかった場合、その法律行為は無効となります。

有効に法律行為を行うことのできる意思能力は、未成年者や成年被後見人等にはないとされます。ただし、営業の許可を得られた場合、その営業の範囲内の行為は当然に有効とされます。

 

・未成年者(5条~)

未成年者が法律行為をするには、法定代理人の許可が必要です。

ただし、単に利益を得、又は義務を免れる法律行為は単独で有効となります。負担のない贈与や借金を帳消しにしてもらうなどがこれに当たります。

法定代理人が自由に処分することを許された財産は、未成年が自由に使うことができます。いわゆるお小遣いです。

 

成年後見、補佐、補助(7条~)

このあたりは、大体頭に入っているので、さらりと・・・。

成年被後見人等は強力な保護規定があります。成年後見人は、成年被後見人の完全に法定代理人です。同意権はありません。同意する必要がないほど、事理弁識能力を欠いているためです。

保佐人、補助人には、同意権があります。被保佐人、被補助人が保佐人、補助人の同意を得て行った行為は完全な行為となります。

なお、補助開始の審判の際に限り、被補助人となる本人の同意が必要です。本人申立ての場合は、不要です。だって、自分で申し立ててるし・・・。あくまで、審判に際して同意が必要であり、申立ての際に同意が必要ではないことに注意です。

ついでに、いかなる場合であっても「日用品の購入その他日常生活に関する行為」を取り消すことはできません。本人意思の尊重の規定が優先されるためです。

 

保佐申立てがあった場合でも、家庭裁判所は後見類型又は補助類型の審判をすることができます。逆も然りです。

後見、保佐、補助審判の取消しは、行為能力が復活したときに限り請求により(職権ではない)行われます。つまり、ほぼ無理ということです。

 

消滅時効完成後の債務の承認は、未成年者、成年被後見人等はできません。時効完成後の債務の承認は、新たな債務を負う行為になるためです。ただし、被保佐人、被補助人については、単独で時効の更新のための債務の承認はできます

 

制限行為能力者の相手方の催告権(20条)

制限行為能力者の相手方は法律行為を承認するかどうか期限を定めて催告することができます。

制限行為能力者が行為能力者となった後に本人に対して催告→期限が過ぎると追認。

保佐人、補助人、法定代理人に対して催告→期限が過ぎると追認。

上記2点については、特別の方式を要する行為については、期間内にその方式を具備した旨を通知しない場合に限り、取り消したものとみなされます

被保佐人、被補助人に対して、保佐人又は補助人に追認を得るべき旨の催告をすることができ、期限内にその追認を得た旨を通史しないときは、取り消したものとみなされます。

 

制限行為能力者の詐術(21条)

制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるために詐術を用いた場合は、その行為を取り消すことはできません。信義則に反する行為をする制限行為能力者までを法的に保護する必要はないということです。

ただし、行為制限能力者であることを黙秘していただけでは詐術には当たりません。詐術と認めるには、行為能力者であることを信じさせるために積極的行為を行うことを要します。

 

ついでに、行為能力の制限を理由とする取消権の行使は、追認することができるときから5年。行為の時から20年で消滅時効を迎えます。ただし、行為無能力者であることを理由とする無効は、取消権の消滅時効が成立した後も主張することができます。

民法 基本原則

民法1条~ 基本原則

 

・基本原則(1条)

私権は、公共の福祉に適合しなければなりません。

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければなりません。

権利の濫用は許されません。

 

・信義則(1条)

民法1条の条文は、基本原則です。

「公共の福祉」「信義則」「権利濫用の禁止」の3つが基本原則として挙げられます。意味は大体以下の通りです。

個人の権利より公共の福祉が優先されます。

信義則に反する行為は無効です。

権利の濫用をした場合は、法の保護を受けられません。

 

以下に信義則の派生概念を挙げます。

禁反言の原則…自分が言ったことと反対の行為をすることは、信義則に反して無効です。

クリーンハンズの原則…自分の手がきれいでなければ、法の保護は受けられません。自らが行った法に反する行為や違法行為によって生じた結果に対して、法の救済を受けることはできません。

事情変更の原則…契約時には、想像もつかなかったような社会事情の変化があった場合には、契約の変更ができます。ただし、当事者の責めに帰すことのできない事情の変化や、契約の変更をしなければ著しく不合理な結果を招くなどの要件が必要です。

権利失効の原則…権利者が信義に反して権利行使を長期間しないでいると、権利の行使ができなくなるという原則です。相手方にとってもはや権利行使がされないものと信頼に足る状態になった場合に限り、時効とは別の個別要件が適用されます。「信義に反して権利行使をしない」という特殊な条件が必要です。

供託法 供託物払渡請求権の消滅時効

供託法 供託物払渡請求権の消滅時効

 

消滅時効

供託物払渡請求権には消滅時効があります。試験では客観的起算点を問われる問題が多いように見えます。

供託物払渡請求権の消滅時効の起算点は、原則「その権利を行使できるようになったとき」です。場合によっては、供託のときが客観的起算点となることもあります。

 

弁済供託における取戻請求権の消滅時効の客観的起算点は、主な場合として、供託者が「供託による免責を受ける効果の必要がなくなったとき」です。一般的には被供託者の還付請求権の消滅時効が成立したときが客観的起算点となります。

 

営業保証における取戻請求権の消滅時効の客観的起算点は、主な場合として、従たる営業所を廃止することになり、供託金が法定の金額を超えたときです。

ex)主たる営業所と従たる営業所2店舗を持っている宅建業事務所が従たる営業所を廃止したことで、供託金1500万円のうち500万円の消滅時効が進行を開始します。

 

受領拒否による弁済供託の還付請求権の客観的起算点は、紛争の解決等により被供託者が還付請求権を現実に行使することが期待できるようになったときです。

 

消滅時効の更新

供託者が供託に関する書類の閲覧をした場合は、債務の承認として取戻請求権の消滅時効は更新します。

つまり、供託官が供託事項証明書を発行すると、法務局側が債務の承認を行ったことになり、消滅時効が更新されるのです。

被供託者が供託事項証明書の発行を申請すれば、還付請求権の消滅時効が更新されます。供託者が供託事項証明書の発行を申請すれば、取戻請求権の消滅時効が更新されます。よって、供託者の閲覧請求によって還付請求権の消滅時効が更新されることはありません(逆も然り)。

供託法 保証供託 その2

供託法 保管替え、差替え、代供託

 

・保管替え

営業保証金を供託している事務所が他の法務局の管轄地に移動する場合、保管替えを請求することができます。供託している金銭等をそのまま別の法務局に移転してもらいます。

ただし、保管替えができるのは金銭と振替国債のみです。有価証券の保管替えは認められていません。

また、差押えがされた金銭や振替国債の保管替え請求をすることもできません。差し押さえられている供託物が他の法務局に移転してしまっては、差押えの意味がありませんからね。

 

・差替え

保証供託として供託している振替国債や有価証券は、金銭に差し替えることができます。金銭を振替国債や有価証券に差し替えることも、振替国債を有価証券に差し替えることもできます。ただし、裁判上の保証供託の場合は、裁判所の許可が必要です。

保証供託の差し替えは、新たな供託物を供託した後に従前の供託物を取り戻す形で手続きを行います。

 

・代供託

代供託とは、国債証券を供託している場合であって、国債証券の償還期限が到来したときに、法務局で国債証券の償還金を受け取ってもらい、その償還金をそのまま供託しておくことで、供託を継続させるという手続きです。この手続きには申請が必要です。