民法 代理行為 その4

民法109条~ 表見代理

 

・代理権授与の表示による表見代理等(109条)

実際には代理権がないにも関わらず、他人に代理権があるように表示した本人は、当該他人が行った代理行為に対して責任を負います。ただし、第三者が当該他人に代理権がないことを知り、又は過失によって知らなかった場合、本人は責任を負いません。

また、上記の場合において、他人に代理権があるように表示した本人は、当該他人が第三者との間で表示された代理権の権限外の行為を行ったときに、第三者が権限外の行為について代理権があると信じるべき正当な理由があれば、権限外の行為についても責任を負います。

ex)AがBに対して代理権を付与していないにも関わらず委任状を交付した場合であって、BがAの代理人と称してCと法律行為を行い、CがBをAの代理人と信じたことに善意無過失であったときは、AはBの行為について、責任を負います。

 

判例(109条)

代理権授与表示者は、代理行為の相手方の悪意又は過失を立証することで、表見代理の責任を免れることができます。(最判昭和41.4.22)

無権代理人が締結した根抵当権設定契約を本人が追認し、当該無権代理人がさらに他の第三者根抵当権設定契約をした場合、本人が行った追認行為は、第三者との関係では表見代理が成立し、第三者に正当な理由があるときには、109条及び112条が類推適用され、本人は表見代理人の責任を負います。(最判昭和45.12.24)

 

・権限外の行為の表見代理(110条)

他人に代理権を与えた本人は、代理人が代理権の範囲外の行為を行った場合において、第三者代理人の権限があると信じるべき正当な理由があるときには、責任を負います。本条において、本人が責任を負う場合は、第三者に善意無過失が求められます。

 

判例(110条)

110条は、代理権を有する者がその権限を越える行為をした場合に適用されるものであり、代理権がないものがした行為には適用されません。(大判大正2.6.26)

本人は、代理人が権限外の行為をした場合には、その行為について無過失であっても責任を免れることはできません。(最判昭和34.2.5)

代理人代理人と名乗らず、本人の名において権限外の行為を行った場合は、相手方がその行為を本人自身の行為と信じたことについて、正当な理由があるときに限り、110条を類推適用し、本人はその責任を負います。(最判昭和44.12.19)

民法 代理行為 その3

民法107条~ 代理行為

 

・代理権の濫用(107条)

代理人が自己又は第三者の利益を図るために代理権の範囲内の行為をした場合、相手方がその目的を知り、又は過失により知らなかったときは、その行為は代理権を有しない者が行った行為とみなされます。

相手方が代理人の代理権限があったことを知っているとき、又は知ることができたときは、本人はその責任を負わないということです。

 

判例(107条)

親権者が子を代理して、子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、自己又は第三者の利益を図ることのみを目的とする等、親権者が子を代理する権限を著しく逸脱すると認められない限り、代理権の濫用には当たりません。(最判平成4.12.10)

 

・自己契約及び双方代理等(108条)

同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は双方の代理人として行った行為は、代理権を有しない者が行った行為とみなされます。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、代理権が認められます。

代理人と本人の利益が相反する行為も代理権を有しない者が行った行為とみなされます。この場合でも、本人があらかじめ許諾をした行為は、代理権が認められます。

本条の規定は、本人を保護するための規定であるため、あらかじめ本人から許諾が得られている行為を代理する場合は、有効な代理行為となります。(大判大正8.12.26)

 

判例(108条)

契約当事者の一方が相手方に自己の代理人の選任を委任した場合、その委任契約は無効であり、相手方が選任した代理人には、代理権がありません。(大判昭和7.6.6)

登記申請について、同一の弁護士が登記権利者及び登記義務者の双方の代理人になっても、その代理行為は有効です。登記手続きはすでに発生した権利関係の公示を申請するものであり、新たな法律行為を行うものではないためです。(最判昭和43.3.8)

民法 代理行為 その2

民法103条~ 代理行為

 

・権限の定めのない代理人の権限(103条)

権限の定めのない代理人は「保存行為」「代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲の利用又は改良」のみ行うことができます。

 

・復代理人の選任(104条・105条)

委任による代理人任意代理人)は、本人の許諾を得たとき又はやむを得ない事由があるときに限り、復代理人を選任することができます。

法定代理人は、自己の責任において復代理人を選任することができます。この場合、法定代理人は、復代理人のすべての行為について責任を負わなければなりません。ただし、やむを得ない事由により復代理人を選任した場合は「選任」と「監督」についてのみ責任を負います。

なお、本人が被後見人であり、後見監督人がいる場合、後見人は後見監督人の同意がなければ、復代理人を選任することはできません。

 

・復代理人の権限等(106条)

代理人は、その権限の範囲の行為について、本人の代理人となります。

代理人は、本人及び第三者に対し、代理人と同一の権利義務を有します。

代理人の代理権が消滅した場合、復代理人の権限も消滅します。

 

判例(106条)

代理人の選任によって、代理人はその権限を失いません。(大判大正10.12.6)

代理人がその委任事務ために金銭等を受領した場合は、本人に対しても代理人に対してもその金銭等を引き渡すことができます。この場合、復代理人代理人に対して金銭等を引き渡した場合は、本人に対する引渡義務は消滅します。(最判昭和51.4.9)

民法 代理行為 その1

民法99条~ 代理行為

 

・代理行為の要件及び効果(99条・100条)

本人の代理人が本人のためにすることを示して行った意思表示は、本人に対して直接効力が生じます。第三者代理人の相手方)が代理人に対して示した意思表示も同様に本人へ直接効力を生じさせます。

代理人が本人のためにすることを示さないで行った意思表示は、自己(代理人)に対して効力が生じます。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは本人に効力が生じます。

 

・代理行為の瑕疵(101条)

上記が前提となりますが、代理人の意思表示に瑕疵が生じる場合があります。代理人が相手方にした意思表示が錯誤によるものであったり、詐欺や強迫の場合です。また、代理人がある事情について悪意であった又はある事情について善意であっても有過失であった場合も瑕疵ある意思表示となります。

このように代理人が瑕疵ある意思表示をした場合には、その事実の有無は代理人によって決するものとされています。つまり、本人ではなく代理人の状況によって判断するということです。

ただし、代理人が善意であっても、本人が悪意であった場合は、上記の規定は適用されません。もし、本人が悪意でも適用されると、悪意の本人が善意の代理人を任命すれば、本人はやりたい放題になってしまいます。

ついでに、本人が選任したのが代理人ではなく使者である場合、使者の事情は常に無関係となります。使者による意思表示は、使者の善意悪意に関係なく常に本人の状況によって効力を生じさせます。

ex)本人が使者によって動産甲を購入する場合、売主が無権利者であることについて、使者は悪意でも本人が善意であれば、本人は動産甲を即時取得する。

 

判例(101条)

法人の代表者が選任した代理人が、法人のために動産を買い受けたところ、売主が無権利者であった場合、売主の無権利について、法人の代表者に過失があったとしても、代理人が善意無過失であれば、法人は動産を即時取得します。即時取得の要件である善意無過失は、法人においては代表機関により決するべきですが、代表機関が代理人を選任した場合は、代理人について判断すべきとされています。(最判昭和47.11.21)

上記判例は、法人の代表機関による代理人選任の場合です。法人ではなく個人が代理人を選任し、代理人によって動産を購入した場合、売主の無権利について、代理人が善意無過失でも、本人が善意有過失の場合は、即時取得の要件を満たしません。

 

代理人の行為能力(102条)

制限行為能力者代理人として行った行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができません。

成年被後見人等を代理人に選任した場合は、行為能力の制限による取消しは認められないということです。制限行為能力者代理人にする以上、その意思表示について本人は責任を持たなければなりません。

ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者法定代理人として行った行為は、取消しが認められます。つまり、成年被後見人がその未成年の子の代理人として行った行為は、取消しが認められる、ということになります。

民法 意思表示 その4

民法96条~ 詐欺・強迫、意思表示の効力

 

・詐欺又は強迫(96条)

詐欺又は強迫による意思表示は取り消すことができます。

相手方に対する意思表示について、第三者が詐欺を行った場合は、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限りその意思表示を取り消すことができます。

詐欺による取消しは善意無過失の第三者対抗することができません

強迫による取消しは善意無過失の第三者対抗することができます

詐欺による取消しより強迫による取消しのほうが効力が高いのは、詐欺に遭ってしまった表意者にも一定の落ち度があるという点と、強迫による意思表示をした表意者はより保護に値するという理由があります。

 

ex)AがBに土地甲を譲渡し、さらにBがCに土地甲を譲渡した場合

①AのBに対する意思表示がBの詐欺によるものであったときは、Aは土地甲の所有権を確定的に失います。

②AのBに対する意思表示がBの強迫によるものであったときは、Aは土地甲の所有権を回復することができます。

 

詐欺と錯誤による意思表示は、双方の要件を同時に満たす場合があります。その場合、表意者は自らの選択においていずれかの事由による取消しを主張することができます。

 

民法96条による意思表示の取消しの効力は、取消しの意思表示を行う前に利害関係を有するに至った第三者に限って有効です。取消し後に利害関係を有するに至った第三者とは、対抗関係となり、登記がなければ対抗することができません。(大判昭和17.9.30)

詐欺による意思表示の取消しは、表意者が取消し前に利害関係を有するに至った善意無過失の第三者に対抗することはできませんが、当該第三者が取消し後に利害関係を有するに至った場合には、表意者が先に登記を備えていれば、対抗することができます。

 

・意思表示の効力発生時期等(97条)

遠方にいる者への意思表示は、その通知が相手方に到達したときからその効力が生じます。ただし、相手方が正当な理由なく通知の到達を妨げた場合は、通常到達すべきときに到達したものとみなされます。

上記の意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、その効力は妨げられません。

法人に対する意思表示は、その使用人にすれば足ります。意思表示の相手方の勢力範囲に入り、了知可能な状態に置かれたときに意思表示が到達します。(最判昭和36.4.20)

 

・公示による意思表示(98条)

公示による意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときに行うことができます。公示を始めた日から2週間が経過したときに相手方に到達したものとみなされます

ただし、表意者が相手方の所在を知らないことに過失がある場合は、公示による意思表示の効力はありません。

 

・意思表示の受領能力(98条の2)

意思表示の相手方がその意思表示を受けたときに意思能力を有しなかったり、未成年又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもって相手方に対抗することはできません。ただし、法定代理人又は行為能力者となった相手方がその意思表示を知った後は、対抗することができます。

つまり、意思表示を了知できない人に対しての意思表示では「ちゃんと伝えました」と主張することができないということです。なお、条文の通り被保佐人、被補助人には意思表示の受領能力があるとされているため、被保佐人、被補助人に対する意思表示は有効です。

コロナ感染

さて、現在自宅療養中です。多少のどの痛みはありますが、発熱はほぼありません。

原因は、娘が保育所でもらってきたと思われます。肝心の娘は無症状陽性。今のところ、一番元気。

妻と長男が完全にダウン。長男に至っては食欲すらない状態。

次男は感染しているのかどうか不明。とりあえず今のところ元気。鼻水は垂れてる。

 

ちょうど4回目ワクチンが終わった後だったこともあり、私の症状が軽くて助かりました。私は家事全般をこなすことができるので、妻も多少は助かっていると思われます。このように育ててくれた両親に感謝です。

その両親はご飯を作って持ってきてくれたり、「せっかく時間ができたんだから勉強しなさい」とラインをくれたりします。マジ教育熱心。

 

最近は過去問をぶん回しているので、ブログの更新頻度は少なめですが、しっかり着実に知識を詰め込んでいます。

せっかく時間ができたので、頑張りたいと思います。

しかし、三連休×2が完全に潰れてしまった・・・。

子どもたちが出掛けたいと言っていたので、来月に埋め合わせかな?

民法 意思表示 その3

民法95条 錯誤

 

・錯誤(95条)

意思表示に錯誤がある場合、表意者はその意思表示を取り消すことができます。

①意思表示に対応する意思を欠く錯誤

②表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤

取り消すことができるのは上記①~②のみです。また、②の場合は、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、取り消すことができます。つまり、契約書等に書いてあることや誰が見ても当たり前の場合には、認識違いで行った法律行為を取り消すことができるということです。

表意者が重大な過失によって錯誤に落ちっていた場合は、取り消すことができません。ただし、「相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は知ることができたとき」「相手方も表意者と同じ錯誤に陥っていたとき」は取り消すことができます。

錯誤による取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができません。

 

「意思を欠く錯誤」とは、意思表示と真意が一致していないことを指します。

1000万円で土地を売却しようと思っているのに契約書には1000円と書いてあった場合は、その契約書には意思が反映されていません。

 

「法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤」とは、意思表示と真意は一致しているものの、意思表示をするに至った事実に間違いがある場合です。

Aが、ある絵画が作家Xの作品であると誤解してBに購入を申し込んだ場合であって、実はその絵画は作家Yの作品であったときは、Aが「この絵画はXの作品であるから購入する」という意思表示が表示されて(相手に伝わって)いることが錯誤取消しの要件です。購入する意思と真意は一致していますが、真実(作家XY)に間違いがあります。

なお、上記例においては、Aが何も言わずに絵画を購入した場合、Bが「AはXの作品を欲しがっているな…」と知ることはできないため、Aは取り消すことができません。

ちなみにBが絵画は作家Yの作品であるにも関わらず作家Xの作品であるとAに告げていた場合、Aは詐欺による取消しを主張することができます。