会社法 計算等 その1

会社法431条~ 会計帳簿等

 

・会計の原則(431条)

株式会社の会計書類は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従って作成されます。

 

・会計帳簿と計算書類

会計帳簿は企業秘密をも含むことが多いため、原則開示を行う性質のものではありません。主に取引履歴やそれに伴う金銭出納が記録されます。計算書類の元となるものです。

それに対し、計算書類は貸借対照表損益計算書等を含むもので、会社の財産・財務状況が示されます。また、計算書類は定時株主総会で承認を得なければなりません。投資家や銀行が投資・融資をする際は計算書類を見て企業の経営状態を確認します。計算書類は公告義務があるため、開示による利益があります。

 

・会計帳簿(432条・433条・434条)

会社は法令に適った会計帳簿の作成義務があります。会計帳簿の閉鎖時(通常は会計年度決算で締めたとき)より10年間の保存義務があります。

会計帳簿は、議決権又は発行済株式の100分の3以上を保有する株主であれば、請求理由を示した上で開示請求ができます。ただし、不正な目的での請求は認められません。

対象会社の親会社社員も会計帳簿の開示請求ができますが、裁判所の許可が必要であり、必要と認められない理由での開示請求はできません。

裁判所は訴訟上必要と認められる場合には、会計帳簿の提出命令を下すことができます。

会社法 役員等の損害賠償責任 その6

会社法430条の2~ 補償契約及び役員等のために締結される保険契約

 

・補償契約(430条の2)

通常、役員等が任務懈怠によって第三者に損失を与えた場合は、当該役員等は第三者に対して損害賠償責任を負うこととなります。しかし、懈怠責任を恐れるがあまり、会社経営が振るわなければ元も子もありません。

そこで、会社は、会社が役員等が負うべき損失や第三者との和解金等を支出する契約を交わすことができます。また、役員等が法令違反を疑われた場合に責任の追及に係る費用(防御費用)を支出することができます。

これらの補償契約は株主総会の決議(取締役会設置会社の場合は取締役会の決議)を経た上で交わすことができます。

ただし、通常要する費用を超える範囲や利益相反行為による損失、悪意又は重過失による損失を補償することはできません。

 

・保険契約(430条の3)

役員等賠償責任保険(D&O保険)の契約に関する事項です。

「会社が保険者(保険会社)と締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が填補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの」(ほぼ原文)

こちらは保険会社との契約となり、契約を行うには株主総会の決議(取締役会設置会社の場合は、取締役会の決議)が必要となります。また、この保険契約は役員等に一方的に利益のある契約となりますが、利益相反行為には当たらない(適用除外)とされます。この契約を利益相反行為とみなせば、保険契約と利益相反行為承認の2回分の決議が必要になってしまい、手続き上の無駄が発生するためです。

会社法 役員等の損害賠償責任 その5

会社法428条~ 役員等の損害賠償責任

 

・取締役が自己のためにした取引に関する特則(428条)

取締役又は執行役が会社と直接取引を行い、会社に損害を与えた場合、それが自己のために行った取引であるときは損害が発生した事由が取締役又は執行役の責めに帰すものでなかったとしても、取締役又は執行役は損害賠償責任を負います。取締役会の承認を得たか否かは問いません。

425条、426条、427条の適用はされないため、責任の一部免除はありません。

ただし、424条の適用はあるため、総株主の同意があれば、責任を免除することができます。

 

・役員等の第三者に対する損害賠償責任(429条)

三者に対する損害賠償責任は、役員等が悪意又は重過失があった際に発生します。

取締役、執行役、会計参与、会計監査人、監査役がその業務を行うにあたり、虚偽の記載、記録を用いて業務を行った際は、損害賠償責任を負います。

ex)会社が倒産寸前であるにもかかわらず、取締役が売掛で商品を仕入れた場合、取引先に対して損害賠償責任を負います。

 

・連帯責任(430条)

複数の役員等が会社や第三者に対して損害賠償責任を負う場合、それらの者は連帯して責任を負わなければなりません。連帯債務者となります。

会社法 役員等の損害賠償責任 その4

会社法427条 責任限定契約

 

・責任限定契約(427条)

 役員等が責任の免除を受けるには、総株主の同意が必要です。しかし、業務を執行しない非業務執行取締役等(非業務執行取締役、監査役、会計参与、会計監査人のことを指す)に関する損害賠償責任は、定款に定めることで、責任の限度額を「定款に定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額又は最低責任限度額のいずれか高い額」とすることができます。なお、本定款の定めは登記事項です。

主に社外の人材が非業務執行取締役等に就くため、それら社外の人材が安心して会社と契約を結べるようにする法律です。

ただし、非業務執行取締役等が契約の更改等によって、業務執行を担うようになった場合、将来に向かって責任限定契約の効力は失われます。非業務執行取締役等であっても、たまたま業務執行に関わってしまった場合、契約が変更されたと解されることもあるため、注意が必要です。

非業務執行取締役の責任が限定される場合は、以下の通りです。

①非業務執行取締役等が職務を行うにあたり、善意無過失であること

②定款の定めに基づいて責任限定契約が交わされていること

 

・責任限定契約に関する定款の定め(427条)

責任限定契約に関する定款変更については、株主総会の特別決議が必要です。株主総会への議案提出の際には、監査役(監査等委員、監査委員含む)がいる場合、監査役全員の同意が必要です。いなければ同意は不要です。

 

・株主への事後通知(427条)

実際に責任限定契約を締結した非業務執行取締役等の責任を免除した場合、責任免除を行った後の最初に招集される株主総会で通知しなければなりません。あえてこのために臨時株主総会を招集する必要はありません。通知事項は「責任の原因と賠償額」「免除される限度額とその算定根拠」「責任限定契約の内容と契約締結理由」「免除を受けた金額」の4点です。

 

・425条4項5項の準用(427条)

非業務執行取締役等が責任の免除を受けた場合、退職金の支給、新株予約権の行使、譲渡を行うためには、株主総会の決議が必要となります。

会社法 役員等の損害賠償責任 その3

会社法426条 取締役等の責任の一部免除に関する定款の定め

 

・取締役等の責任の一部免除に関する定款の定め(426条)

取締役が2名以上の監査役設置会社監査等委員会設置会社指名委員会等設置会社は、役員等の責任の一部免除に関し、定款に定めることができます。これは責任の免除に関し、毎度毎度臨時株主総会を招集しては株主も迷惑を被るため、定款に定めることで、責任の一部免除に関する決議を効率化させる意味があります。また、監査役等が設置されている会社のみに限定されているのは、監査する人がいないとどんな内容でも責任を免除されてしまい、株主が困るためです。取締役が2名以上と定められているのは、取締役が1名のみであれば、自分自身で責任免除ができてしまうためです。

なお、役員等の責任の一部免除に関する定款変更を行う場合は、監査役(監査等委員、監査委員含む)の全員の同意が必要となります。

一部免除の要件は、以下通りです。

①423条1項による懈怠責任であること

②役員等が任務を行うにあたり善意無過失であること

③責任の原因となった事実、当該役員等の職務執行状況その他を勘案し、特に必要であると認められること

④取締役の過半数の同意(取締役会設置会社の場合は、その決議)があること(責任を負う取締役は決議に加われません。)

⑤責任の一部免除に関する議案の提出に関し、監査役(監査等委員、監査委員含む)の全員の同意が得られていること

 

・株主による差し止め(426条)

定款の定めによって、実際に役員等の責任の一部免除を決定した場合、「責任の原因と賠償額」「免除される限度額とその根拠」「責任を免除すべき理由」を株主へ通知しなければなりません。上記事項の通知に加え、責任の免除に異議がある場合は、1か月以上の異議申立期間を設け、通知しなければなりません。当該会社に最終完全親会社があり、かつ免除を行う責任が特定責任である場合、当該最終完全親会社も同様の通知を行う必要があります。

公開会社→通知又は広告

非公開会社→通知のみ

異議申立期間を経過したときに責任免除の効力が発生します。すなわち、期間を1か月未満としたり、通知手続きを取らなかったりした場合は、責任免除の効力が生じません。

 

異議を述べることができる株主は、総議決権の100分の3以上を保有する株主に限られます。なお、議決権には責任免除を受ける役員等が保有する分は計算に入れません。また、特定責任の免除に関する異議は、最終完全親会社の株主(議決権3/100保有株主)も述べることができます。

株主から異議があった場合、会社は責任の一部免除を行うことはできません。

 

・425条4項5項の準用(426条)

取締役の過半数の同意(取締役会の決議を含む)により、役員等の責任の一部免除を行った場合、当該取締役等の退職金等の利益の提供、新株予約権の行使、譲渡を行うためには、株主総会の決議が必要となります。

会社法 役員等の損害賠償責任 その2

会社法425条 役員等の損害賠償責任

 

・損害賠償責任の一部免除(425条)

役員等の損害賠償責任は、総株主の同意がなければ、免除できないとされています。

しかし、役員等がその職務を執り行うにあたり、善意無過失であった場合は、責任の一部免除が認められています。一部免除には、株主総会の決議が必要です。

免除されない賠償額は、年間報酬額から算出され、その計算法は役職により異なります。代表取締役や代表執行役だと賠償額が高くなり、取締役や会計参与等だと賠償額は少なくなります。

免除を受ける場合は、「責任の原因と賠償額」「免除される限度額とその根拠」「責任を免除すべき理由」を株主総会の議案とし、開示しなければなりません。また、株主総会へ議案を提出するにあたり、監査役(監査等委員、監査委員を含む)がいる場合は、その全員の同意が必要となります。(多数決や監査役会、監査等委員会の決議ではありません。全員の同意がなければ、株主総会へ議案提出ができません。)

 

・一部免除を受けた役員等への報酬の付与(425条)

実際に責任の免除を受けた役員等に対して、退職金や財産上の利益を付与する場合、株主総会の承認が必要です。それらの役員等が新株予約権保有していた場合、新株予約権を行使、譲渡する際にも株主総会の承認が必要です。さらに新株予約証券を保有していた場合は、会社に預託(預けること)しなければなりません。

会社に損害を与えた役員等は中々の針のむしろですね…。

会社法 役員等の損害賠償責任 その1

会社法423条~ 役員等の損害賠償責任

 

・役員等の損害賠償責任(423条)

役員等(取締役、執行役、監査役、会計参与、会計監査人)がその任務を怠ったことにより会社に損害を与えた場合は、会社に対して損害賠償責任を負います。

ここでいう任務とは、善管注意義務や忠実義務を指します。

例えば、会社の使用人が会社に損害を与えるような違法行為を行っていたところ、取締役がその行為を発見したとします。取締役が当該違法行為を監査役へ報告した結果、違法行為が露見したことで会社に損害が発生した場合、取締役は任務を怠っていないことになりますので、会社に対する損害賠償責任を逃れます。しかし、取締役が当該違法行為が露見することにによる会社への損害を恐れるがあまり、監査役へ報告をせず、隠蔽したとします。結果的に違法行為が露見してしまい、会社にさらなる損害が生じてしまったとなれば、取締役は義務を果たしていない、つまり任務を怠ったことになりますので、損害賠償責任(=懈怠責任)を負うこととなります。(懈怠責任…けたいせきにん)

 

・競業取引、利益相反行為による懈怠責任(423条)

取締役や執行役が会社の承認を得ずに競業取引を行い、利益を得た場合、当該役員等が得た利益がそのまま会社の損害額であると推定されます。

また、取締役や執行役が利益相反行為を行うにあたり、会社の承認を得なかった場合は当然懈怠責任が生じますが、承認を得た上で会社に損害を与えた場合も懈怠責任が生じると解されます。承認を得た上で会社に損害を与えた場合は、実行した取締役、執行役は当然に責任を取らなければなりませんが、承認に賛成した取締役にも責任が生じます。

ただし、利益相反行為を行った取締役が監査等委員会の承認を受けていたときは、責任を逃れるとされています。厳正な監査を行った上での損害であれば、やむを得ないという理由です。なお、指名委員会等設置会社の監査委員会の承認では、責任を逃れることはできません。監査等委員会(から選任された監査等委員)は、監査等委員会ではない取締役の選任、解任、報酬に意見を述べることができるほど強力な機関です。そのため、監査等委員会の承認を受けていた場合に限り、責任が生じないということになっています。

 

・損害賠償責任の免除(424条)

会社に対する役員等の責任は、総株主の同意がない限り、免除することができません。

逆から見ると総株主の同意さえあれば、責任を免除できることになります。