会社法 吸収分割

会社法757条~ 吸収分割

 

・吸収分割契約の締結(757条)

吸収分割ができる会社は、株式会社と合同会社に限られます。吸収分割承継会社はいずれの会社でも構いません。承継会社は分割会社の権利義務の全部又は一部を承継します。

 

・株式会社に権利義務を承継させる吸収分割契約(758条)

株式会社に権利義務を承継させる吸収分割契約を行う場合、下記の事項について、定めなければなりません。

①吸収分割会社と承継会社の商号、住所

②承継会社に承継する資産、債務、雇用契約、その他の権利義務に関する事項(ただし、分割会社及び承継会社の株式、並びに分割会社の新株予約権に関する事項を除く)

③吸収分割により分割会社及び承継会社(自己株式取得分)の株式を承継会社に取得させる場合は当該株式に関する事項

④承継会社が吸収分割に際して、分割会社へ「株式(株式を交付した場合は、承継会社の資本金、準備金に関する事項も定めなければなりません。)」「社債」「新株予約権」「新株予約権社債」「株式等以外の財産、金銭」を交付する場合はそれらに関する算定方法

⑤分割会社の新株予約権者に対して、承継会社の「新株予約権」又は「新株予約権社債」を交付する場合は、その内容及び算定方法

⑥⑤に定める割り当てに関する事項

⑦吸収分割の効力発生日

⑧吸収分割の効力発生日に、分割会社が全部取得条項付種類株式の取得を行う場合は、「取得を行う旨」「剰余金の配当(承継会社の株式以外の配当はできません。)」に関する事項

上記⑧に規定する場合に、剰余金の配当を「承継会社の株式」以外に定めることができない理由は、吸収分割を行うにあたって分割会社の株主がスムーズに承継会社の株主となれるよう「分割会社の株式を回収して承継会社の株式を割り当てる」という形を取るためです。

 

・株式会社に権利義務を承継させる吸収分割の効力の発生等(759条)

吸収分割の効力発生日に、承継会社は吸収分割契約の定めに従い、分割会社の権利義務を承継します。

 

・債権者保護を行わなかった場合の規定(759条)

本来、吸収分割を行う際には、分割会社は「異議を述べることのできる債権者」に対して、異議申述がないか個別に催告を行う必要があります(債権者保護手続き)。しかし、個別に催告を行わなかった場合には、吸収分割の効力発生後に分割会社に対して債務の履行を請求できない場合であったとしても、分割会社に対して、債務の履行を請求することができます。同様の状況で、承継会社に対して債務の履行の請求ができない債権者であって、個別の催告を受けなかった場合には、当該債権者は承継会社に対して債務の履行を請求できます。

債務の履行を請求できる額は、分割会社に対して行う場合は「吸収分割の効力発生日に有していた財産の価額を限度」、承継会社に対して行う場合は「承継した財産の価額を限度」とされています。

 

不法行為によって生じた債務の規定(759条)

吸収分割を行う場合であって、吸収分割に異議を述べることのできる債権者に対し、催告を不要とした場合(公告方法:新聞、電子公告)であったとしても、分割会社の不法行為によって生じた債務があるときは、個別の催告を受けなかったときと同様に分割会社又は承継会社に対して、債務の履行の請求ができます。

 

・吸収分割が詐害行為に該当する場合(759条)

分割会社が承継会社に承継されない債務の債権者(残存債権者)を害することを知って吸収分割を行った場合、残存債権者は承継会社に対して債務の履行を請求できます。ただし、承継会社が残存債権者を害することを知らなかった場合は、請求できません。

また、吸収分割と同時に全部取得条項付種類株式の取得又は剰余金の配当(それぞれ、対価・配当が承継会社の株式である場合に限る)を行う場合には、上記の請求はできません。なぜなら、分割会社が吸収分割と同時に全部取得条項付種類株式の取得を行う場合には、分割会社の債権者は吸収分割に対して異議を述べることができ、分割会社は当該債権者に対し個別の催告をしなければならないからです。

残存債権者は債務の履行の請求を吸収分割をしたことを知った時から2年又は吸収分割から10年間請求又は請求の予告をしない場合は、消滅します。

ex)A社はX部門(不採算部門)とY部門(採算部門)を持っています。A社にX部門を残し、Y部門を分割してB社に承継させた場合において、A社の債権者であるC社はA社から債権回収を行う見込みがなくなってしまうため、C社はB社に対して債務の履行を請求できます。ただし、B社がC社の存在を知らなかった場合には、C社はB社に対して請求ができません。また、A社が分割と同時に全部取得条項付種類株式を取得(対価はB社の株式)する場合は、C社に対して個別の催告をしなければならないため、C社は詐害的会社分割を事前に知ることができます。