商業登記法 登記手続 その3

商業登記法25条~ 登記手続

 

・提訴期間経過後の登記(25条)

登記すべき事項に取消しや無効の訴えが提起できる内容がある場合、通常それらの訴えが提起され、訴えが認められた場合は、登記をすることはできません。しかし、提訴期間が経過し、訴えを起こすことができなくなった場合は、登記を行うことができます。

ex)非公開会社による募集株式の有利発行が特別決議を経ずに行われた場合であり、1年以内に取消しの提起がされなかった場合は、募集株式の発行について、登記ができる。

上記の登記を行う場合は、取消しや無効の訴えが提起されていないことを証明する書面を添付して登記の申請を行います。会社は、本店所在地を管轄する地方裁判所へ訴えの提起がされなかった証明書の交付を求めることができます。

ただし、会社が原告適格者(上記事例の場合、既存株主)に対して隠ぺい工作を図る等の行為を行い、原告適格者が株式発行の事実を容易に気づくことができず、かつ提訴期間を経過した後に登記を行う等、悪質な場合は、提訴期間が経過後であったとしても、訴えが認められることがあります。

 

・行政区画等の変更(26条)

行政区画、郡、区、市町村内の町若しくは字又はそれらの名称に変更があった場合は、変更の登記がされたものとみなされます。

ただし、住居表示の変更により本店や支店、代表取締役等の所在地、住所の変更がされた場合は、変更の登記を申請しなければなりません。

 

・具体例(26条)

行政区画、名称の変更→「さくら町1番地」から「桜町1番地」又は「うめ町1番地」(変更不要)

住居表示の変更→「桜町1番地」から「桜町1丁目1番1号」(変更必要)

商業登記法 登記手続 その2

商業登記法24条 登記手続き

 

・申請の却下(24条)

申請の却下事由は以下の通りです。ただし、不備を補正することができる場合、登記官が定めた相当の期限内に申請人が補正したときは、却下となりません。

①申請に係る当事者の営業所の所在地が当該申請を受けた登記所の管轄に属しないとき。

②申請が登記すべき事項以外の事項の登記を目的とするとき。

③申請に係る登記がその登記所においてすでに登記されているとき。

④申請の権限を有しない者の申請によるとき、又は申請の権限を有する者であることの証明がないとき。

⑤2以上の申請を同時にする場合(21条3項)において、当該申請に係る登記をすることにより、もう一方の申請書に係る登記をすることができなくなるとき。

⑥申請書がこの法律に基づく命令又はその他の法令により定められた方式に適合しないとき。

⑦申請書に必要な書類を添付しないとき。

⑧申請書又はその添付書類の記載又は記録が申請書の添付書面又は登記簿の記載又は記録と合致しないとき。

⑨登記すべき事項につき無効又は取消しの原因があるとき。

⑩申請につき経由すべき登記所を経由しないとき。

⑪当時にすべき他の登記の申請を同時にしないとき。

⑫同一所在地における同一商号の登記(27条)であるため、登記ができないとき。

⑬申請が法令の規定により禁止された商号の登記を目的とするとき。
⑭商号の登記を抹消されている会社が商号の登記をしないで他の登記を申請したとき。
⑮登録免許税を納付しないとき。
 
・先例(24条)
オンラインによる登記の申請をする場合において、添付書面情報に講じられた電子書面の検証によって、登記情報の改ざんが発見された場合は、当該申請は却下されます。この場合、本来添付すべき書類が添付されていなかったことになるため、「⑦申請書に必要な書類を添付しないとき」に該当します。
改ざん等の不正のある書類を添付した場合、添付されていない扱いになるため、オンラインでなかったとしても、⑦に該当することになりそうですね。

商業登記法 登記手続 その1

商業登記法17条~ 登記手続

 

・登記申請の方法(17条)

登記は、原則書面にて申請しなければなりませんが、オンライン申請もできます。

登記申請は、法人代表者が申請者となって行います。この場合、申請者は法人又はその代表者です。自身が代表者であると証明するため、代表者資格証明書を添付する必要があります。具体的には「商業登記事項証明書」がこれにあたります。法務局で取得できます。

代理人司法書士)が行う場合の申請者は代理人です。代理申請の場合は、申請書には代理人の印を押し、法人代表者印を押印した委任状を添付して行います。代理人が申請する場合であっても、代表者資格証明書は必要になります。

 

・申請書の添付書類(18条)

代理人司法書士)が登記申請をする場合は、申請書にその権限を証明する書類(委任状)を添付しなければなりません。

 

・申請書の添付書類(19条)

官庁の許可が必要な登記を申請する場合は、申請書に許可が下りた証明書又はその認証のある謄本を添付しなければなりません。

 

・添付書類の特則(19条の3)

代表者資格証明書を添付すべき場合において、申請書に会社法人等番号を記載した場合は、添付は必要ありません。

 

・登記官による本人確認(23条の2)

登記官は、登記の申請があった場合において、申請人以外が申請していると疑うに足りる相当な理由がある場合は、申請人や代表者、代理人に対して出頭を求め又は必要な文書の提示若しくは提供を求めることで、申請人の権限の有無を調査することができます。

申請人や代表者、代理人が遠方にいる場合は、他の登記所の登記官に調査を嘱託することができます。

商業登記法 登記簿等 その2

商業登記法12条~ 登記簿等

 

・印鑑証明(12条)

自然人は、市町村にて印鑑登録を行い、印鑑証明を発行してもらうことができます。会社等の法人の場合は、登記所に印鑑登録を行います。

登記所に対して、印鑑証明の交付を請求することができます。登録を行った登記所以外の登記所でも印鑑証明は請求が可能です。

印鑑証明の請求ができる者は以下の通りです。

①会社の代表者(又は代理人

②支配人

③破産法、民事再生法会社更生法の規定によって選任された管財人又は保全管理人

 

・先例(12条)

民事再生手続きの決定がされている株式会社の代表取締役であっても、印鑑証明書を交付してもらうことができます。ただし、この場合「民事再生法による再生手続きの登記がある」旨が付記されます。

会社更生法の規定により選任された管財人であったとしても、更生認可の決定がされ、機関の権限回復の登記がされた場合は、印鑑証明書を交付してもらうことはできません。

③存続期間が満了している会社の代表者は、印鑑証明書の交付を受けることはできません。

代表取締役の職務執行停止及び職務代行者の登記がされている場合であっても、新たに代表取締役が選任された場合は、新たな代表取締役は、印鑑証明書の交付を受けることができます。

商業登記法 登記簿等 その1

商業登記法10条~ 登記簿等

 

・登記事項証明書の交付等(10条)

登記事項証明書の交付は、誰でも申請することができます。商業登記は、会社や商人の権利義務を公示することが目的であるため、誰もがその証明書の交付を申請する権利があります。

登記事項証明書の交付は、法務省令で定める場合を除き、必ずしも管轄の登記所に申請しなくても良いです。

ちなみに交付申請の手数料は、600円です。1通につき50枚を超える場合、50枚ごとに100円加算されます。

 

・先例(10条)

①登記上、会社の存続期間が満了している会社の代表者の登記事項証明書は交付ができません。存続期間が満了している会社の場合、たとえ、解散の登記がされていなかったとしても、交付はできません。

②破産手続開始又は更生手続開始の登記がされている会社の代表者の登記事項証明書は、その旨を付記した上で交付しても差し支えありません。

 

・登記事項の概要を記載した書面の交付(11条)

登記事項概要記録証明書の交付についても、誰でも請求できます。

交付手数料は450円で、1通につき50枚を超える場合は、50枚ごとに50円加算されます。

 

・附属書類の閲覧(11条の2)

ここでいう附属書類とは、登記申請がされたときに一緒に提出された書類のことです。商業登記であれば「株主総会議事録」や「定款」などです。不動産登記であれば「登記原因情報(売買契約書や贈与契約書等)」などです。また、代理申請した司法書士に関する情報も附属書類にあたります。附属書類の保管期間は登記申請がされてから5年間です。(不動産登記は30年)

附属書類の閲覧は、利害関係のある者が利害関係を証明する書類を添付した上で申請しなければなりません。「提示」ではなく「添付」です。

あくまで閲覧のみなので、写本(コピー)をもらうことはできませんが、デジカメやスマホで撮影することはできます。

商法 商業総則 その2

商法20条~ 商業総則

 

・支配人(20~26条)

商人は支配人を選任することができます。商人は、支配人を選任した場合は、その登記をしなければなりません。

支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を持ちます(強力な代理権)。商人が支配人の代理権に制限を加えた場合、代理権の制限について善意の第三者に対し、対抗することはできません。

支配人の代理権の制限は登記することができません。

 

商人の営業所の主任者であることを示す名称を付された使用人は、その営業所について、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされます。つまり、当該商人は、過失なく当該使用人を支配人であると誤認した第三者に対し、当該使用人と締結した契約の無効を主張することはできません。ただし、第三者が使用人の無権限について悪意であった場合は、この限りではありません。

 

商人の営業に関する特定の事項に関して委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を持ちます。ただし、当該権限に制限を加えた場合であったとしても、制限について善意の第三者に対抗することはできません。

使用人の権限の制限は登記することができません。

 

商人の店舗で物品の販売を行う使用人は、物品の販売についてのみ権限を有します。裁判上又は裁判外の行為を行う権限は有しません。

 

・代理商(27~31条)

代理商は、商人のために平常の営業範囲内の取引の代理、媒介を行う者で、使用人ではない者を指します。代理商は、商人のために取引、媒介を行った場合は、遅滞なくその旨を通知しなければなりません。

 

代理商は競業行為や利益相反行為を行うことはできません。同業他社の取締役や執行役、業務執行社員になってはいけません。(ということは業務を執行しない社員にはなれる…?)

代理商が競業行為や利益相反行為を行った場合の損害の額は、代理商又は第三者が得た利益の額であると推定します。

 

商人又は代理商は契約期限を定めなかった場合は、2か月前に予告をすることで契約を解除できます。ただし、やむを得ない事由がある場合には、いつでも契約解除ができます。

 

代理商も商人のために留置権を持ちます。

商法 商法総則 その1

商法1条~ 商法総則

 

・商行為(1~3条)

商行為は、商法の定めに従って決められています。

商法に定めのない商行為は商習慣に従い、それ以外は民法の適用を受けます。

当事者の一方のために商行為を行った場合、双方に商法が適用されます。また、2人以上の当事者の1人が商行為を行った場合、全員に商法が適用されます。

誰かの商行為はみんなの商行為になります。

 

・商業登記(8~10条)

商法の規定によって登記すべき事項は、登記後でなければ第三者に対抗できません。ただし、登記の後であったとしても第三者が正当な事由によって登記があることを知らなかった場合は、対抗することはできません。

故意又は過失によって不実の登記を行った者は、不実の登記であることを善意の第三者に対抗することができません。

 

・商号(11~18の2条)

商人はその商号を登記することができますが、登記をするかどうかは任意であり、必ずしも商号を登記しなければならないわけではありません。

不正の目的をもって他人の商号を使用する者に対し、商号の使用差し止めをする場合は、当該他人が登記を行っているか否かに関わらず行うことができます。

 

商号は、その営業とともに譲渡する場合又は廃業する場合に限り、譲渡することができます。

ex)商号「ラーメン太郎」というラーメン屋は、商号のみを譲渡することはできませんが、営業権と一緒であれば、他人へ譲渡し、他人が「ラーメン太郎」を名乗ることができます。

 

営業を譲渡した場合は、譲渡人は同一及び隣接市町村では、20年間同一の営業を行ってはなりません。同一の営業を行わない旨の特約を交わした場合は、30年間となります。

 

営業の譲受人が、商号を引き続き使用する場合、譲渡人の債権者は譲受人に対して、債務の履行を請求することができます。

債務履行の請求を受けなくするためには、「譲受人は譲渡人の債務を弁済する責任を負わない」旨の登記を行う必要があります。または、譲渡人と譲受人が2人一緒に第三者へ通知することで、譲受人は譲渡人の債務を履行する義務を負いません。

譲受人が譲渡人の債務を負う場合であって、営業の譲渡から2年以内に、譲渡人に対して債務の履行を請求又はその予告をしないときは、譲渡人に対する債務は時効によって消滅します。また、譲渡人の営業によって生じた債権について、譲受人に対して弁済した弁済者は、善意でかつ重過失がなければ、弁済の効力が生じます。

 

判例(14条)

14条 自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任(最判昭和52.12.23)

商人が自己の商号を他人に使用させた場合、商人は当該他人が取引によって生じた債務を負います。

「取引によって生じた債務」とは、自己の商号を使用して営業することを他人に許諾した商人が、当該他人を商人であると誤認した第三者と取引をしたことによって負担することになった債務を指します。(この場合は、他人が負担すべき債務は商人の責任となります。)

ただし、他人が営業活動中の交通事故等の事実行為によって負うべき損害賠償責任は、商人が引き受ける義務を負いません。(この場合は、他人の責任です。)